第25話いかがわしい店と取引とお金が欲しい




 『一体これっ! 何屋さんなのぉ――――っ!!』



 私はユーアお勧めのお店を見て、心の中でそう突っ込む。



「え、雑貨屋さんだよ? スミカお姉ちゃん」

「えっ?」


 あれ? また声にでてたっ!?


 いや、それは出るよ!

 心の中だけでは抑えきれないよっ!



 『ノコアシ商店』



 そう看板には書いてある。


『………………』


 それはいい、それはいいんだ。


 けど――――


「……ユーア、あ、あの人は何してるの?」

「え、呼び込みの人だよ」

「そ、そうなんだ、へ、へぇ~」


 うわっ目が合ったっ!?

 サッっと急いで目を逸らす!


 なるべく見ないように俯いて、今度は違う人物を指差しユーアに尋ねる。


「ユ、ユーア、あっちの人は?」

「多分呼び込みの人だよ?」

「ふ、ふ―ん、そうなんだ…………」


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 そんな訳あるかぁぁぁっっ!!



 絶対いかがわしい店だよここっ!!



 なんであの人は、四つん這いで首輪までしてるの?

 あの人はなんで、木製の馬に乗ってるの?

 どうしてあの人は、二階の看板の脇に張り付けられてるのっ!


 しかも半裸のテカテカムキムキで

 目元だけ蝶のようなマスクしてるしっ!


 それに入口も暗幕で塞がっていて中見えないしっ!


 絶対これアダルトなお店だよねっ!

 不潔だよっ!ギルティだよっ!!



「ユ、ユーア! ユーアにはまだ早いから! ほ、他の店に行きましょう!」

「え、どうしたの、スミカお姉ちゃん? お顔が真っ赤だよ? 体調悪いの?」

「わ、私は大丈夫だから! は、早く他のお店に――――」


「あらぁ? いらっしゃいっ!」

「ぎぃやぁぁ――――っ!!!!」


 私は声のした方を振り向きもせずに、ユーアと私に透明壁を展開する。


 け、気配を全く感じなかったっ! 何者なのっ!



「ちょっとぉ、久し振りじゃないのぉ、ユーアちゃん」

「はい、ニスマジさん。おはようございますっ!」

「随分と、服がボロボロねぇ、冒険者は大変よねぇ、あ、中古だけどいいの入ってるわよ」

「あ、ニスマジさん、今日は買取をお願いしたいんですっ! そうですよね? スミカお姉ちゃん」

「………………」


 敵だっ!

 絶対こいつはっ!!



 私はいつものように、敵の分析から開始する。


『~~~~っ!!』

 こ、怖いっ!


 2メートル超えのガチムキの男、そしてテカテカ、全身黒のピッチリ皮タイツに口元しか見えない黒マスク。腰に手を当ててなんかクネクネしている。


 ぶ、武器はない。

 なら先手必――――


「スミカお姉ちゃん、買取をしてもらいたいんですよね?……」


「はっ!?」


 ジト目でこちらを見ているユーアに気付き、意識を戻す。



「あらぁ、なんか可愛いお洋服の美少女ねぇ、ユーアちゃんのお知り合いなの? ちょっとわたしの好みか――」


「ユ、ユーア、この変―― じゃなくてこの人はっ!?」


 私はこの見た目、変態の言葉を遮ってユーアに質問する。

 最後まで聞いてはならいと本能が教えてくれた。



「ここのノコアシ商店の店長さんの、ニスマジさんだよ。いつも優しくしてくれるんですっ!」

「どうもぉ、店主のニスマジよぉ、スミカちゃんでいいのかしら?」


「そ、そうだけど、私に何かよう」


 私は身構えながらニスマジに相対する。


「何かって、買取りの品があるって聞いたけどぉ?」

「い、いいえ、結構よっ! ほ、他に行くから!」


 コイツは、私の天敵だっ!

 戦場で培ってきた勘がそう訴えているっ!



「スミカお姉ちゃん、ボクが案内したお店はダメなんですか?」


 それを聞いたユーアは悲し気な目で私を見つめてくる。


『っ!!』

 そ、そんな潤んだ目で私を見ないでっ!


「ここのお店は、ボクもよく来ているし、種類もいっぱいあって、ニスマジさんも優しいし、安くしてくれる時もあるんだよ?」


『うううっ』

 今度はそんな捨てられた仔犬のような目で見ないでっ!


「わ、わかったよ、せっかくユーアが勧めてくれたんだもんね?」

 

 ユーア撫でながらそう答える。


「あらぁ、なんか怯えてない? わたしが言うのもなんだけど、この街で一番のお店だと自負しているわぁ」


「そうだよスミカお姉ちゃん、だから一緒に入ろうっ!」

「わ、わかったから押さないでっ! 入るっ! 入るからっ!」

「なんか、姉妹みたいねぇ二人とも可愛いわぁ、食べちゃいたいくらいよぉ――」

「っ!!」


 後ろから聞いてはならないことが聞こえた気がしたけど、あれは空耳だったと自分に言い聞かせた。だって正気を無くしそうだもん。




 私たち3人は暗幕を捲って店内に入る。


 中は意外と明るくて大量の商品が並んでいた。



『こ、これはっ――――』


 ユーアとそれに店主のニスマジが言うだけあって

 商品の種類が非常に――じゃなく『異常』に多い。


 なんだろう?


 雑多に陳列されているように見えて、それでいてカテゴリー毎にキチンと陳列してある。でもそのカテゴリーの種類が異様に多いのだ。あらゆるジャンルの商品を置いている。


 とにかく、なんでもかんでも売れそうなものを詰め込み過ぎ。

 異世界版ドン〇ホーテ?って感じにも見える。



「とりあえず、買取だったわねぇ、奥のカウンターへいらっしゃいな」


 ニスマジに後に続いてユーアと二人店内を奥に進んでいく。

 ユーアは見慣れてるせいか真っすぐ前を見ていた。



「さあ、どんな物を買取って欲しいの?」


 カウンターに着くなり、しなを作ったままそう聞いてくる。


「うん、これなんだけど」


 アイテムボックスより、試しにスティックタイプのレーションを10個出して見せてみる。


「あら、若いのにマジックバッグ? 持っているのね、で、これは何?」

「あ、ニスマジさんっ! これ、甘くて色んな味があっておいしいんだよっ! 元気も一杯出るしっ!」


 ユーアがニスマジに渡したレーションを見て得意げに話す。

 なかなかナイスな売り込み振りだっ!



「ふーん、お菓子みたいなものかしら?」

「なんなら開けて食べてもいいよ」


 物珍しそうに眺めるニスマジに試食を勧める。

 まだまだ大量にあるからね。


「なんか、見たことない材質の袋ね。ここから開けるのかしら? あら、ピンク色のお菓子なのねぇ」


「あ、味も色も種類あるよ。甘いのも塩辛いのもあるし」

「ふ~ん」


 ニスマジは一口含んで、口の中で噛み締めているようだ。


「あら、おいしいわねっ! 果物の味かしら? それになんだか体が楽になってきたわっ! これって回復してるっ?」


 相変わらず、この世界の人にはゲーム内アイテムの効果が高い。


 リカバリーポーションもそうだったけど、効果(小)でもかなりの効果がある。もしかして元々の基礎能力の違いのせいかもしれない。


「あ、それとこれは保存食だから日持ちするよ」


 更に追加情報を伝える。


「ど、どのくらい保つのかしらっ!」

「これだと、3年くらいは持つんじゃない? ただ味は劣化していくと思うけど」

「3年っ!? そんなに保つのぉ――!」

「うん、保証はできないけど、それぐらいは平気」

「味もそこいらのお菓子より美味しいしバリエーションもあって、しかも体力も回復できる。更に保存が長い――冒険者に――もしくは貴族の――――」

「………………」


 どうやらニスマジは長考モードに入ってしまったようだ。

 初めてのアイテムだろうから仕方ないね。


 でもユーアが退屈そうに見える。


「はい、ユーアこれでも飲んでて、もうちょっと待ってようか」


 私はドリンクタイプのレーション(キュウイ味)を渡す。

 私はヨーグルト味だ。


「スミカお姉ちゃん、おいしいねっ!」

「そうだね」


「ちょ、ちょっと待って!それは何!っ?」


 ニスマジはカウンターに身を乗り出しながら聞いてくる。


 かかったねっ!


「これはね、実は飲むタイプのやつなんだよ」


 軽く説明をして「そうだよねっ!」てユーアに微笑む。



「…………き、決めたわっ! りょ、両方とも売ってちょうだいっ! ありったけ売ってちょうだい!何個あるのっ? できればあるだけ欲しいわっ!!」


 ニスマジは口早になって、一気に捲し立てる。


『うっ』

 だ、大丈夫っ?

 目が血走ってもの凄く怖いんですけど。



「そ、そうだね、全部はまだ売れないから、とりあえず千個ずつだったら私もいいんだけど」


 人差し指を立ててそう説明する。


「それって、全部で二千個ぉぉぉっ!?」

「わっ!!」

「きゃっ!」


 び、びっくりしたっ!

 そんなに急に大声上げないで欲しいっ!

 私だけじゃじゃなくユーアだって驚いてるよっ!



「いっ」

「い?」

「いくらなら、売ってくれるのっ!」

「そっちで決めてもらっていいよ。その代わりに一つ約束してもらうけど」

「約束……? それって何?」

「まだ売るって決めてないから、話せないよ。売るのは価格が決まってからだし」

「そ、そうよね、ちょっとだけ考えさせてねっ」


 そうしてニスマジは頭を抱え込み何やらブツブツと呟き始める。


(か、可愛い顔して、やるわねこの子。わ、わたしを試してるんだわっ!)

 

 何て呟きが微かに聞こえてくる。 


「………………」


 試すつもりも何も、私は適正価格知らないだけなんだけど……



「金貨――枚」


 どうやら考えが纏まったのか、ニスマジが話してくるが良く聞こえない。


「うん? いくら?」

「金貨――枚」

「えっ?」

「き、金貨千枚で売ってちょうだいっ!!」

「いいよ」

「いいのおぉぉっっ!?」


 私は悩まずにその金額に即答する。

 それを聞いてまた大声を上げるニスマジ。


 だって今は直ぐにでも現金が欲しいんだもん。

 私もユーアもほぼ一文無しだからね。


「ね、ねぇ? 本当にいいのっ?」

「別にいいよ。ユーアが紹介してくれた店だから決めただけだし」


 ここでさり気なくユーアの株を上げておく。


「ユ、ユーアちゃんありがとうね、こんないい取引を紹介してくれてっ」

「ボ、ボクは別に、スミカお姉ちゃんを案内しただけですっ!」


 そんなニスマジにお礼を言われて、ユーアがまたあわあわしている。


 これでまとまったお金が入りそうだ。



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