第300話変態には【変態】
「ちょ、なんでか力が入りずらいんだけどっ!?」
「クンカクンカ」
マスメアに羽交い絞めされながら、無理やりに部屋に向かい引きずられる私。
引き剥がそうと力は入るのだが、なぜか効果が薄い。
それを見て、他の職員たちは見てみぬふりするように視線を逸らす。
恐らく、日常茶飯事的に見ている光景なんだろう。
「うふふ、無駄ですよ。力だけではどうにもなりません」
「う、くぅっ!」
片手でドアを開けて、中に連れ込まれる。
その部屋では、なぜかナジメがソファーで寝ていた。
『ナ、ナジメが……、まさかあれから?』
まるで事後でもあるかのように………
そこはさながらアリ地獄か蜘蛛の巣の様に見えた。昆虫だけに。
『く、このままだとナジメみたいに、私もあっちの世界に……』
横たわるナジメを見ながら恐怖する。
これから行われるであろう、マスメアの行為に。
『ぐぅ、仲悪くても結局兄妹そろって変態じゃないっ! あっちもこっちも変態ばっかりっ! ……ん? 待てよ? 『変態』?』
未だにクンカクンカしている変態を見て思い出す。
新しい能力に『通過』と『変態』が追加されて試していないことに。
追加能力:【変態】変態できる。最小1/5。最大5倍。
『く、だったら変態には【変態】だっ! 一か八か試してやるっ!』
マスメアの拘束から抜け出せない。
ならこのピンチには『変態:最小1/5』を使う時だと。
私の予想では、恐らく1/5の大きさに……
『よし、1/5で【変態】実行っ!』
「はい、それでは冗談はこれで終わりです。人目に付くところでは話しづらいお話だと思って、怪しまれないように連れてきました。ここでなら大丈夫ですよ。スミカさん」
「あ、怪しまれないって、やっぱりあの行動が通常なのっ!? っえ?」
パッと腕を離し、私を開放する。
「あれ?」
もしかしなくても、さっきのはモードに入ってなくて演技?
確かに今のマスメアの目は普通だ。ハートになってない。
「な、なんだ、なら耳元でそう言ってよねっ! 私もナジメみたく合意もなしに………… って、あれ? なんでそんな目になってるの?」
解放された私は、マスメアの様子が変わったことに気付く。
「な、なに?」
熱に浮かされたように頬を染め、手をワキワキさせている。
そして背筋に嫌なものを感じる。
真摯な瞳から一転、突如瞳がハートになったからだ。
「まさかスミカちゃんの方から、素肌を晒して大胆にアプローチをしてくるなんて、ちょっと驚きましたっ! そしていただきますっ!」
「ちょっと、何言ってっ!?」
ガバッ!
と勢いよく、私のほぼ露出している胸元に頬ずりしてくる。
「はぁっ! 一体何がどうなってっ! 素肌って? あああっ!?」
そこで自分の姿の異変に驚く。
「な、な、な、――――」
私の服装が、胸をギリギリ覆う布と、パンツだけになってる事に。
まるでさらしの様に胸に巻いてあるのは黒い布切れ。
ところどころにアクセントの様に白地も混ざっている。
そして今日は赤だったはずのパンツが、同じく黒色に。
上と同じように白いアクセントが見える。
恐らく、その姿を見てマスメアは変態モードに突入したんだろう。
『そ、それよりも、なんでっ!』
なんでいきなり下着姿に?
しかも上半身は何もつけてなかったはず…… 今日はたまたま。
なのに、しかも白と黒のものなんて――――
「あっ! も、もしかしてっ!?」
それは新しい能力【変態】を使った影響だと気付く。
装備の布面積が、本来の「1/5」になってしまったのは。
きっと【変態】は装備の形を変えられるのだろう。
夏服や冬服みたいに、それと下着や水着みたいに。
「はぁはぁ、クンカクンカっ! はぁはぁ、じゅる」
「はっ!」
マスメアの荒い息遣いと、怪しげな音で我に返る。
そんなマスメアは、私の富士山の谷間に顔を埋めて鼻息荒くしている。
「くっ!」
『へ、【変態】今度は5倍でっ!』
マスメアの顔を引き剥がしながら追加能力を使う。
するとスカートも袖も、引き摺る程に長くなる。
ただし、襟元が伸びて胸元全開にはならなかった。
そうなったら、装備の意味もなくなるところだった。
ただ袖はめちゃくちゃ長い、萌え袖になってるけど……
『ふぅ、本当は部分で調節出来る能力なんだろうね、ミニスカにしたり、長くしたり。もしかしたらフードも出来るかもね。この面白い装備だったら』
脅威がなくなったとばかりに、心の中で小さく息を吐く。
これで露出部分が減ったので一安心だろうと。
「ふぅ、―――― って、まだいんのっ!?」
「ふん、ふんっ」
諦めたと思ったマスメアが、まだ抱きついていた。
相も変わらず、深すぎる谷間で鼻息を鳴らしていた。
どうやらマスメアには、衣装の有る無しは関係なかったみたいだ。
「って、本当にいい加減にっ! ――――」
「ん? なんじゃ、ねぇねはまたここに戻って来たのかのぅ?」
目をこすりながらナジメがむくりと体を起こす。
今の騒ぎで目が覚めてしまったみたいだ。
「おわっ!? ね、ねぇねっ! その格好は一体どうしたのじゃっ!」
「そ、それはいいからマスメア何とかならないっ!」
ダブダブな姿と、それに埋もれているマスメアを見て驚くナジメ。
そんな叫びを他所に、起きた幼女に助けを求める。
「マ、マスメアよ、わしが後で相手するから、ねぇねから離れてくれんか?」
見かねたナジメがマスメアに声を掛ける。
「は、はい、わかりました。ナジメちゃん」
それを聞いて、渋々と言った様子で私から離れるマスメア。
ただしよく見ると、その口元は緩んでいた。
「ふぅ、今度こそ落ち着いたよ。ありがとうナジメ」
自分を犠牲にしてまで、助けてくれたナジメにお礼を言う。
「い、いや、わしは付き合いが長いから気にしなくてもいいのじゃが。それよりもその格好と、どうして戻ってきたのじゃ? もしかしてわしのお迎えかの?」
「ううん、そうじゃなくて、用事が出来たから戻ってきたんだ。私も商業ギルドに登録したいのと、スラムの土地を購入しようと思って」
装備を通常サイズに戻しながら答える。
「へ? 土地じゃと? スラムに?」
「うふふ」
それを聞いて、キョトンとするナジメ。
そんなナジメとは対照的に、マスメアは笑みを浮かべていた。
二度も私が来た事に、何かを感じていたのだろう。
「それじゃ、掻い摘んでだけど、ここを出た時から話すね」
私はナジメの隣に座りながら口を開いた。
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