第578話ヒトカタVSマヤメとトテラ
「んっ! なぜお前がここにいるっ!?」
突如現れた白い人型に、声を荒げるマヤメ。
ククリナイフを逆手に持ち、すぐさま臨戦態勢を取る。
「え? なになに? マヤメちゃんの知り合い?」
一方、初対峙となるトテラは、訳が分からずに、呆気に取られていたが……
「あっ! もしかして、この人形って?」
張りつめた空気を感じ取り、ふと、スミカから聞いた話を思い出す。
「ん、そう。澄香がメーサの中で戦った、マヤたちの敵」
「や、やっぱりっ! でもやっつけたみたいなこと言ってたよね?」
人型をチラと見やり、ヒソヒソとマヤメの耳元で話す。
「ん、それは違う。追い詰めたけど、止めを刺す前に外に吐き出された」
「そ、それって……」
「ん、メーサの吐き出した液体に、トテラの脚が溶かされた時」
「だ、だよね~?」
今の話で思い出したのだろう。
引き攣った笑みで、治った右脚を無意識で見下ろす。
「で、でもね、あのお人形さん。どうやってここまできたの?」
「ん、マヤもずっと考えてた。きっとメーサと同じかも」
「あのサメちゃんと?」
「ん、メーサは地中を捕食して、たまたま発見した。だからアイツも」
「そ、そっかぁ、偶然かぁ~。で、でも、あのお人形さんも強いんだよね?……」
マヤメの傍から離れ、おもむろに屈伸運動を始めるトテラ。
震える声とは裏腹に、その視線はしっかりと人型の姿を捉えていた。
「ん、澄香が止めを刺しきれなかった。だから手強い」
「わ、わかった。ならアタシ頑張るよ。ここでなんとかしないと、あのお人形危ない気がするもん」
「ん、それはマヤも同意。だから二人で止めを刺す。じゃないと澄香を迎えにいけない」
人型を見据えながら、ククリナイフをグッと握り直すマヤメ。
その隣では、準備運動を終え、決意の宿った目で立ち上がるトテラ。
パカッ
『『!ッ――――ォォオオグ』』
そんな二人の気配に触発されたのか、視えない衝撃波を放つ人型。
それが開始の合図となり、トテラは真上に跳躍し、マヤメは――――
「んっ!」
インビジブルDシャドーを使い、懐に潜り込もうと試みたが、
「っ!? コイツ生物じゃないっ! うぐっ!」
人型の影に潜影が出来ずに、まともに衝撃波を受けて、背後の壁に叩き付けられる。
「マ、マヤメちゃんっ! こ、このぉっ!」
ドガンッ!
『『?!ッガグ』』
マヤメが被弾したのを見て、トテラは後頭部を蹴り飛ばす。
加減なしの一撃を受けた人型は、地面に叩き付けられ、頭部が弾け飛んだ。
「マヤメちゃんっ!」
タタタ――――
慌ててマヤメの元に駆け寄る。
危険な勢いで、洞窟の壁に激突していたからだ。
「ん、マヤは平気」
パンパンと埃を払いながら、何でもないように立ち上がる。
「よ、良かったぁ~。でも本当にケガとかないの?」
「ん、これがマヤを守ってくれたから」
「これって?…… マフラーだよね?」
首元から背中に伸びているものを見て、首を傾げる。
何故このマフラーが、マヤメを守ってくれたのかと。
「……あれ? あ、もしかして?」
「ん、そう。これで衝撃を吸収した」
トテラはここで気が付く。
背中に伸びたマフラーが、スプリングのような形状に変化している事に。
「ん、それよりも、アイツにあの攻撃をさせるのは危険」
「あの攻撃って?」
「あの声を飛ばすやつ。あまり撃たせると洞窟が崩れる」
「あ」
「ん、だからマヤは接近戦を仕掛ける。トテラは――――」
「わかった。お人形があれやろうとしたら、アタシが蹴り飛ばせばいいんだよね?」
マヤメの伝えたい事を声に出し、得意げな笑みを浮かべるトテラ。
それに対しマヤメは――――
「んっ!」
グッと親指を立てて、いつもより自然な笑顔で返した。
※
「ん」
ザシュシュッ
『『!ッ――――――ォォオオグ』』
人型の影ではなく、飛ばしたナイフにダイブし、間合いに入るマヤメ。
ナイフを逆手に持ち、何度も斬り付けていくが、
「ん、やっぱり再生が早いっ!」
自身が付けたキズが、瞬く間に復元する事に驚く。
「そりゃそうだよっ! だってアタシが蹴った頭もう治ってるもんっ!」
「ん、それは理解してる。でも無限じゃない。だから――――」
ザシュシュッ!
ドガンッ!
「おおお――――っ! そのマフラー、そんな事まで出来るんだねっ!」
「んっ!」
ドガガガガガガッ!
再生速度に怯むことなく、ナイフ以外にも手数を増やすマヤメ。
マフラーの先端を拳状に変形させ、夥しい打撃の連打を浴びせる。
「あっ! 手が伸びたっ! マヤメちゃん後ろっ!」
「んっ!」
トテラの警告で、人型の攻撃を躱す。
触手のように伸びた腕が、マヤメを背後から狙っていたからだ。
ザシュシュッ!
ドガガガガガガッ!
『『!ッ――――ァガウ”』』
ブンッ ブンッ
そんな正確無比で、隙のない攻撃に、人型は堪らず暴れる。
反撃とばかりに、触手の腕を振り回すが、
「今度は上だよっ! 左斜めもっ! あっ! また後ろから来るっ!」
「んっ!」
その戦いを、俯瞰で見ているトテラの助言により、全てが不発に終わる。
あらぬ方向からくる攻撃を、躱し、ナイフで両断し、マフラーで捌き、確実にダメージを与えていく。
幸いにも、白い人型の動きは遅い。
接近戦に対する対応も、新人冒険者以下だ。
だから有利に戦える。
本来、中距離を得意とするマヤメでも、トテラの協力を得る事によって。
『『――――ザ、ザザ―――ザ』』
パカッ
「んっ! トテラっ!」
「任せてっ!」
ドガンッ!
『『!――――ッガモ』』
衝撃波を放つ直前に、トテラの渾身の蹴りが決まる。
全力で振り切った一撃は、人型を壁まで吹っ飛ばし、その威力で下半身が爆散した。
タタンッ
「んっ!」
それでも攻撃の手を緩める事は出来ない。
マヤメは一足飛びで、再び人型の懐に潜り込み、
ザシュシュッ!
ドガガガガガガッ!
ナイフによる斬撃と、マフラーでの打撃を加えていく。
このまま攻めれ続ければ消滅、若しくは、再生の限界が訪れると信じて。
パカッ
「もう、しつこいなっ!」
ドガンッ!
『『!?ッ』』
三度、衝撃波を放とうとする、人型を蹴り飛ばすトテラ。
だがその間に、先ほど破壊した下半身は再生を終え、
「んっ!?」
「あっ! 今度は手が増えたっ!」
8本の鋭利な手足を持つ、新たな形態に変形していた。
「あれきっとマヤメちゃんに対抗してるんだよっ!」
この変形の訳はトテラの言う通りだろう。
4つの攻撃手段を持つマヤメに対し、単純に倍にしたのだろうと。
「んっ」
ザシュッ!
『『!ッグググググ』』
ドガッ!
「んっ!」
それでも形勢は逆転しない。
マヤメが有利のまま、確実にダメージを蓄積させていく。
手足が増えたところで、動きそのものが速くも、ましてや強くなった訳でもない。
その職業上、マヤメは体捌きや体術、そして動体視力も優れている。
だからここまでの流れは、至極当然だと言える。
一撃こそ軽いが、それが束になれば大きなダメージに繋がる。
『ん、ここでこの人型を倒す。そしたら褒めてもらえる。澄香がマヤを認めてくれて、マヤが仲間になっても変じゃない。だから――――』
全力で戦う。
今までの自分では、澄香の隣には相応しくないと。
何度も助けられるだけの、そんな関係にはなりたくないと。
『――――でも嬉しかった。仲間に誘われた時は』
だからここで勝って証明する。
澄香の隣に相応しい実力と、胸を張ってシスターズだと言えるように――――
パカッ
「また来たっ! 今度も任せてっ!」
タンッ
四度、衝撃波を放つ予兆を感じ取り、トテラは強く地面を蹴る。
その脅威の俊敏力は、一瞬で人型の眼前に迫り、
「んっ」
そんなトテラに手出しさせまいと、マヤメは8本の手足の動きに集中するが、
「うわっ! 何コレっ!?」
「んっ!?」
蹴りが届く一瞬早く、人型が吐いた、紫色の糸に捕らえられてしまった。
「んっ! これは蜘蛛の糸っ!?」
「クモっ!?」
「麻痺効果がある、ベノムスパイダーの糸っ!」
「えっ!」
「だからこのままでは動けなくなる」
「えっ!? えええええ――――っ!」
ザ、ザ、ザ――――
『『――――――』』
身動きの取れない二人に、ゆったりとした足取りで近づく人型。
いや、今は人型ではなく、8本の手足を持つ蜘蛛型のナニかだ。
そんな蜘蛛型は、マヤメの目の前まで歩いていき、
ザシュッ ×4
「んっ!」
鋭利な4本の手を、左右の上腕と両太腿に突き刺した。
「マヤメちゃんっ!」
そんなマヤメを救わんと、トテラが手足を振り回し、脱出を試みるが、
「あ、あれ? なんだか、くちもからだもしびれて……」
結果、麻痺の効果を早める事になり、次第に動かなくなっていった。
ドクン、ドクン――――
マヤメに突き刺した、4本の腕が脈動し始める
全ての生体エネルギーを、残らず吸い取らんとばかりに。
『……ん、エナジーが一気に――――』
失敗した。
得体の知れない相手に、迂闊に接近戦を挑んだことに。
『マヤが機能停止したら、次はトテラが――――』
思慮が足りなかった。
蜘蛛に形を変えたなら、攻撃方法が変わると。
『ん、きっと澄香なら、こんな事にならなかった。マヤのせいでトテラもマスターも、みんな、みんな、ダメになる――――』
それだけは許せない。
けど、もう自分は動けない。
エナジーを失うと共に、気迫や気概が薄れていく。
最悪の未来を暗示し、次第に意識が朦朧としてくる。
『ん…………』
でもマヤメは知っている。
こんな時、いつもあの英雄が来てくれると。
『………………』
でもそれを望んではいけない。
それを望んでしまったら、今までの弱い自分と変わらないから。
『ト、テラ…………』
だから簡単には諦めない。
このまま諦めては、自分だけではなく、初めての友達をなくす事になるから。
『ん――』
グッ
微かに動く右手で、1本のナイフを握り直す。
この窮地を脱すために、覚悟を決める。
『ククリナイフ弐 隠遁式』
心臓(核)に突き刺すことで発動するアイテム。
持ち主の命の源を触媒に、接触者と自身を暗闇に幽閉する。
持続時間は使用者の命が尽きるまで。
それ以外の解除が不可能。
サクッ
「こ、これならきっと時間を稼げる――――」
自身の胸にナイフの切っ先を突き刺す。
漆黒の刃が、吸い込まれるように、徐々に徐々に沈んでいく。
自身の生命力の源ともいえる、核 (心臓)を目指して。
『…………これならトテラも助かる。マヤはいなくなるけど、きっとあの人がアイツを倒して、マスターを救ってくれる。だってあの人はマヤの英雄だから』
これが最後の願い。
自身の命を賭してまで、叶えて欲しい未来。
都合のいい我儘みたいな願いだけど、あの人になら任せられる。
マスターに似た、
ザシュッ!
『『?!ッ』』
「ん」
突如、絡みついた無数の糸が断ち切られる。
暗闇の中から伸びてきた、ムチなようなものに。
ドスンッ
「あ、いたっ!」
その結果、トテラが糸から解放され、地面に落ちた衝撃で意識が戻るが、
「あっ! マヤメちゃん、今アタシが助けて…… あ、まだ痺れが……」
麻痺の効果が残り、自慢の脚で立つことも出来なかったが、
その代わり――――
ギュンッ!
パクンッ!
「んっ!?」
「…………えっ!?」
その代わり、暗闇の中から現れた、巨大な影に人型が丸飲みされた。
その正体は――――
「あれ? このピンクの魔物って――――」
「んっ! モモっ! なんでここにっ!?」
『ゲロロ――――ッ!』
それは、スミカが溺愛している、巨大化した、キュートードの桃ちゃんだった。
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