第387話ウトヤ湖の主とは
「………………これって、ウー〇ールーパーだよね?」
私たちを見上げて二本足で立ち、短い手を広げて怒り狂う生物を見て聞いてみる。
見た目は色こそ青白く、黒の斑点模様があるが、その姿は昔に流行ったあれに似ていた。
ただし、この生物は全長が10メートル近くあるけど。
「ウーパー〇ーパー? 違うのじゃ。こ奴はパルパウなのじゃ」
腰のロープをほどきながら否定し、訂正される。
「パルパウ? って」
「あ奴は水に生息する魔物でサラマンダーの亜種じゃ」
「サラマンダーっ!? あれが?」
今にも『ウパ』とか言いそうな見た目なのに?
ってか、そもそもパルパウってウーパールー〇ーをもじった名前だよね?
反対から読めば、もろそのものだし。
「後は中々狡猾な狩りをするのじゃ」
「狩りって? どんな事するの?」
「うむ、パルパウは頭の後ろの6本の触手を地上に伸ばして、それで獲物をおびき寄せて捕食するのじゃ。まるで疑似餌のように見せてやるのじゃ」
「ふ~ん、かなり賢いんだね」
まるで提灯アンコウみたいだな、と思いながら相槌を打つ。
「そうじゃな。しかも地上でもある程度動けるし、あんなでも力もかなり強いのじゃ。ただ触手は水の中以外では、あまり操る事は出来ないそうじゃが」
「へ~、なら今はその触手は有効に使えないんだ」
今は足元の透明壁のせいで、水中に戻れないパルパウを見る。
そこまで触手も頑強にも見えないから、きっと重力のせいかな?
「で、そのパルパウをどうするの? 倒すなら私も手伝うけど」
下で暴れている魔物を、油断なく眺めているナジメに提案する。
こんなのがいると、キューちゃんたちも安心できないし。
ならここで倒すのが私としても嬉しいし。
「いや、これはわし一人で戦うのじゃ。これを狩ってキャンプの食材にするのじゃ。じゃからねぇねは安全なところで見てて欲しいのじゃ」
「あ、そうだよね。ならナジメに任せるよ。で、美味しいの? パルパウって」
ナジメの意見を尊重して、ここは譲ることにした。
ついでに、気になる事も聞いてみた。
だってこのままだとみんなで食べる事になるんだもん。
「た、食べた事ないのじゃ、わしは……」
そっと目を逸らして答えるナジメ。
「え? ないの?」
それなのに、キャンプの食材にするの?
「う、うむ、ただ評判は聞いたことがあるのじゃっ! 焼き物や揚げ物が美味しいと聞いたことがあるのじゃっ! じゃから問題ないのじゃっ! それではわしは一狩り行ってくるのじゃ~っ!」
「え? あ、ちょっとぉ~っ!」
どこかで聞いたようなフレーズを叫んで、透明壁よりトンと跳躍するナジメ。
そのままパルパウのいるところまで落下していった。
「…………まぁ、いいか? 危険生物がここからいなくなるなら、それで」
私よりも小さな体で、10メートルのパルパウと対峙するナジメに注視する。
予想外の何かがあった場合には、私もすぐさま動けるように。
――
わしは、ねぇねの魔法の足場から飛び降り、パルパウがいる水面を目指す。
「しかし、本当に不思議なものじゃな、ねぇねの魔法はっ! あんなにデカい魔物を閉じ込めるばかりか、自在に大きさも形も色も変化できるとはのぉっ!」
眼下の巨大な魔物パルパウは、わしを追って空中に飛び上がったところを、水中に戻る前に、透明な壁の中に閉じ込められてしまっていた。
「わしも色んな冒険者を見てきてはいるが、ねぇねほどの魔法使いには会った事が無いのじゃ。魔法はもちろん、武器を振るっての接近戦も一流じゃし、格闘もお手の物。機転も聞くし、立ち回りも歴戦の戦士そのものなのじゃ」
スタッ
『プギャァ――――ッ!!』
わしが地面に足を着いたのを見て、怒り狂い咆哮するパルパウ。
頭の後ろのヒレらしい部分を開いて威嚇をしてくる。
釣り上げるのに使った針は、暴れたせいかエサのオークと共に、巨体の後ろに落ちている。
「ナジメ~っ! 戦いやすいように魔法壁の面積は広げておいたから、思う存分にやっていいよ~っ! でも真上は開いてるからね~っ! あと、そこ水の上だけど魔法は使えるの~っ? 土ないよぉ~っ!」
「む?」
パルパウと対峙するわしの上から、ねぇねが叫んでいる。
どうやら、この状況を心配してくれているようだ。
「大丈夫なのじゃ~っ! わしは土魔法以外にも使えるのじゃ~っ! じゃから心配せずともいいのじゃ~っ! ねぇねは安心してそこで待っててくれなのじゃ~っ!」
「そう? なら頑張ってね~っ! 楽しみにしてるよぉ~っ!」
気に掛けてくれる、ねぇねにわしも大声で返す。
それにしても、本当に……
『……本当にねぇねは素晴らしい人間なのじゃっ! 圧倒的な実力を持ちながら、おごり高ぶる事もなく、こうやってわしの事を気に掛けてくれるっ! じゃからわしはねぇねの為に、そして、ねぇねが守るものの為に頑張るのじゃっ!』
ねぇねが見守ってくれている。
それだけでわしは千人以上の援軍が控えているような気持ちになる。
「おいっ! そこのウーパールー〇ーっ! わしと一騎打ちなのじゃっ! お互いに存分に力を発揮できずとも、後から後悔せぬよう全力で掛かってくるのじゃっ!」
わしはビッと指を突き付けて、パルパウを挑発する。
『プギャァ――――ッ!!』
パルパウはそれを聞き、わしを睨んで奇声を上げる。
「よし、それじゃ行くのじゃっ! 覚悟するのじゃっ!」
その咆哮を開始の合図とし、わしは魔法を唱えた。
――
「……なんか、〇ーパールーパーって言ってなかった? ナジメ」
巨大生物を前に、大声で啖呵を切って挑発する幼女を見る。
「にしても、魔法の事は詳しくないけど、火や風はともかくとして、土の魔法って周りに何もなくてもいいのかな? 前にも似たような事あったし」
確か私と戦った時は、透明壁で地面に蓋をして防いだはずだ。
ただその時は発動はしていたが、魔法が透明壁を抜ける事は出来なかった。
「今回もある意味そんな状況に近いんだけど、あの時は他に方法があるとか、今も他の魔法が使えるって言ってたから大丈夫かな?」
実力を認めているのに、あの小さな体を見ていると心配になってくる。
そもそも体躯の差があり過ぎるのて、そう不安にさせてるんだけど。
「でも、ナジメがあそこまで言い切るんだから、お手並み拝見かな」
まるで勝ち目のない、園児と怪獣との対決みたいだなと思いながらも、
信じて戦いを見守る事にした。
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