SS『クリア・フレーバー』
第19話とある日の戦場1
澄香が異世界に来る前のゲーム内でのお話になります。
ソロプレイヤー時代『クリア・フレーバー』のちょっとしたお話です。
(1/3)
――とある日の戦場―― (1/3)
「あそこの小屋に、逃げ込んだぞっ! あの狭い小屋じゃ逃げ道はねえ。囲んで一斉に鉛玉ブチ込むぞっ!」
「おうっ!」
「ああ」
「はい」
「わかった」
俺たち5人は、とあるプレイヤーを追い詰めた。
連携を取り、射撃や牽制で誘導し、薄暗い森の中にある、小さな納屋に。
「よし、撃てぇ――――っ!!」
「「「おうっ!」」」
ダダダダ――ッ!!
タタッタタッタタタタッ――!
バババババ――――ッ!!
バシュッ!
リーダーの号令により武器を構え、一斉に引き金を引く。
一人のプレイヤーに対して、過剰とも思える攻撃を仕掛けていく。
「「「うお――――っ!!」」」
しかしそこに戸惑いや、逡巡などなかった。
雄叫びを上げながら、弾倉の中身をありったけにぶちまけていく。
一人の少女を追い詰めて、反撃や逃走などできない、集団暴行に近い行為でも、俺たちは躊躇しなかった。
その理由は――――
「よし、もういいだろうっ! さすがに奴もこれではひとたまりもないだろうっ!」
「ああ、そうだなっ! いくらソロのトッププレイヤーだからって、さすがにこれじゃなっ!」
視界の先には、俺たちの一斉射撃により、小屋だったものはそこにはなかった。
その数の暴力により、小屋そのものが跡形もなく消滅しているのだから、中にいたプレイヤーが助かっているとは到底思えない。
「…………や、やり過ぎてないかな? いくらトッププレイヤーだからって、相手は小さい女の子だったんだよ? しかも武器なんて持ってなかったし。なんか少し可哀想になってきた」
「まぁ、気持ちはわかる。傍から見たら俺たちは、小さい女の子を男5人で追い立てて、隠れた小屋ごと破壊しちまったんだからな。でも奴は、あれでもソロ最強の女だ。これぐらいやらないとダメだろう?」
「ははっ、まあ、もういいじゃないかっ! これで俺たちチームの格も上がるってもんだっ! 気にすんなっ!」
「そ、そうですよねっ! 俺たちがあのソロプレイヤー最強の『クリア・フレーバー』を倒しちまったんですものねっ! 格も、箔も、名声も俺たちに付いてきますよねっ!!」
「まあなっ! 奴は先週のソロの大会でも優勝していたからなっ! それを俺たち5人が倒しちまったんだ。明日からはトッププレイヤーの仲間入りだっ!」
「「「ははははははっ!」」」
「…………ん? そういえば、ふと思い出したんだが、先週の大会の優勝賞品ってかなりの装備っていう噂じゃなかったか? そう確か、強固な? いや絶対破壊出来ない壁だったか? それと姿が消せるっていう、あの蝶の衣装の秘密が――――」
なんて、それぞれが勝利の余韻に浸り、談笑していると……
「はい、ご名答。よくできました。あと、そんな簡単に私に勝てるとは思わないで? あの程度の攻撃で、長年守ってきた最強の称号を奪えるなんて事ないから――――」
「「「なぁっ!?」」」
俺たち5人の後ろから、この戦場に似つかわしくない、
そんな澄んだ声が聞こえてきた。
「だから、格も名声も諦めて。そんなものは夢物語だから、私がいる限り」
「「「くっ!!」」」
―――
蝶に似せた衣装の、白と黒のフリフリしたゴスロリ風の装備を纏った人物。
背格好はかなり小さく、まるで低学年の子供が、お遊戯会の衣装のまま来てしまったんじゃないかと思う程の、この世界では、あり得ない程の違和感。
前髪がざんぐりと多少揃って、その黒髪は、腰まである綺麗なストレート。瞳は若干吊り目がちで、少し気の強い印象を受けるが、俺たちを見るその笑みは美少女、いや、小悪魔に近いと言った方が当てはまる。
そんな人物が――――
この世界最強のソロプレイヤー『クリア・フレーバー』だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます