第472話 炎の名は

 残酷のネル・フィードを1話からずっと読んでくれているあなたでも、きっともう頭の中から消えてしまっているかも知れない。


 アンティキティラのX。


 旧Twitterかよ。なんて言ってるやーつは口を慎みたまえ。残ネルの方が先に使っていたのだ。だから作者はTwitterをXにしたイーロン・マスクがずっと前から嫌いだったのだ。


 第一部(1話〜217話)でブラック・ナイチンゲールの5人が使っていたのがみことの炎という様々な特性を持った炎。その力を使い、腐神ふしんと呼ばれる邪悪な存在と戦いを繰り広げていた。


 命の炎。


 その名付け親は最初にアンティキティラの力を手にした風原かざはら美咲みさき。その彼女が使っていたのが、虹色の命の炎だったのだ。仲間の傷を治し、炎に身を包むことで姿を消すこともできた。


 そんな中、宇宙を統括する絶対的存在のはずのハイメイザーから腐神が誕生してしまうという異常事態が発生。


 急遽、事態収束の為、地球ミューバにやってきたのがアンティキティラの最強女戦士ナナ・ティームース。彼女は命の炎のことをXと呼ぶようにブラック・ナイチンゲールのメンバー、黒宮くろみや藤花とうか西岡にしおか真珠しんじゅに告げる。


 メルデスが発動した炎。彼がなぜそれを使えるのか? そして、その炎を彼はなんと呼ぶのか? 第二部後半の核心に迫っていくメルデス編をお楽しみ下さい。









 アンティキティラは宇宙最強の呼び声が高く、ここ第3ミューバの発展、育成を担っている。そのポテンシャルの高さから、様々な宇宙の厄介ごとの解決にも借り出される優秀な種族だ。その存在は、カテゴリーが高い種族ほど認知している。


 すなわち『宇宙人がいる、いない』で論争しているような低レベルな地球ミューバの住人がアンティキティラの存在を知ることはありえない。


 現在そのミューバ人として生きるネル・フィードが、Xのことを知っていては話がややこしくなる。この場は意地でもしらを切り通す。


 それに対し、メルデスの表情はまったく納得してはいない。


「そうですか。知りませんか」


『その炎はなんなんですか?』

(なぜメルデスがXを使えるんだ? 意味が分からないぞ!)


「本当は知っているのでは?」


『知りません』

(腐神はまだ出現していない。なのになぜアンティキティラはメルデスに力を授けた? メリットがない)


 シュボォウッ!!


 ボォオォオオッ!!


 虹色の炎が消えるのと同時に、新たな炎がメルデスの右手を包んだ。それは、先ほど礼拝堂の大扉を包んでいた炎と同じく漆黒。


「この炎は異星の力。その名をみことの炎。あなたのダークマターに匹敵するパワーを秘めているのです」


『ミコトノホノオ?』

(Xじゃないだと? いやいや、どうみてもアンティキティラのXだ!)


 メルデスは右の手のひらを真上に向け、漆黒の『命の炎』を操った!


「メデューサッ!!」


 ボボォウッ!!


『ギシャアッ!』


 『ギシャアッ!』


『ギシャシャアッ!!』


 主人あるじの呼び声に炎が唸りを上げ、5匹の炎蛇が不気味な雄叫びと共に姿を現した。鎌首をもたげ、ターゲットであるネル・フィードを睨みつける。


「ぷっひーっ! やだやだっ!」


『ひゃあっ! キモーっ!』


 アイリッサとエルフリーナは身をを寄せ合い手を握り、涙目で怯えている。


『なんですか、それはっ?』

(聞いたことがある。アンティキティラの黒いXからは無数の蛇が襲いかかってくると。このことかっ!)


 しらを切り続けるネル・フィードを、メルデスはため息と共にじっとりと、炎越しにみつめる。


「私の勘違いなのか、よほどあなたの嘘がうまいのか。困りましたね」


『その異星の力はどうやって手に入れたのですか?』

(カテゴリー1が目前のアンティキティラが暴走するとは考えにくい。謎すぎる!)


「知りたいですか?」


『無論』


「こちらも無論、死にゆく者になど、教える気はありません」


『私は死ぬつもりはない……!』


 グッ!


 ネル・フィードは全神経を研ぎ澄まし、ダークマターを爆発させる態勢を整える。


「あなたとアイリッサさんの不思議な力に、パウル様はたいへん興味をお持ちなのです」


『エミリーも似たようなことを言っていた。私たちの力がパウルへのプレゼントになるとか。どういう意味ですか?』


「その通りの意味、としか答えようがありませんね」


『言っておきます。アイリッサさんに手を出せば、あなたの命はない!』


 メルデスはニヤリと微笑む。


「私をとか殊勝しゅしょうなことを言っていたわりには、なかなかアグレッシブなことを言うじゃありませんか」


『時と場合による、ということです』


「なるほど。では、それがどんな時と場合か、教えて頂きましょうか!」


『なにっ!?』


 メルデスが漆黒の炎メデューサの宿る右手をネル・フィードに向けた!


 ズババッ!!


地獄の炎牙粉砕撃ヘルファング・ブレイク────ッ!!」


 ブアオオオオッ!!


 ドォ───────ンッ!!


『ギシャア─────ッ!!』


 5匹の獰猛どうもうな炎蛇が灼熱の牙を剥きネル・フィードに襲いかかる! 


暗黒機関銃迎撃ダーク・マシンガン・インターセプトッ!!」


 ギュアア──────ッ!!


 それに対し、ネル・フィードも迎撃技を繰り出す! ダークマターが火花のように弾け、無数の銃弾が雨のように降り注ぎ、黒炎の蛇を次々と撃ち抜いていく!


 ブォォオオッ!!


  ドォォォオ────ンッ!!


 






 暗黒機関銃ダークマシンガンは襲いくるメデューサをいとも容易く葬り去った。同時に、技を放ったメルデスの両肩、両腿、背中にも銃弾は命中していた。


 シュウウウウウッ!!


「あ、あなたの力は想像を絶している。悪魔の力を凌駕するその力。到底この世界のものとは思えない……!」


 ボタボタボタ……ッ!


 撃ち抜かれた傷から大量の鮮血が滴り落ちる。命の炎も完全に消え、目もうつろなメルデス。再び、虹色の命の炎で回復させるわけにはいかない。ネル・フィードは躊躇ちゅうちょなく、迅速な決断を下す。


『これで終わりです!』


 ギュアアッッ─────!!


 すかさず虚無的無限破壊ヴォイド・フィストを放つ体勢に入ろうと、力を込めた拳をメルデスに向けた瞬間、それは起きた。


「ふっ……終わらない……!」


『……っ!?』 










 ドッガァ──ンッ!!










「ネルさーんっ!!」


『ゼロさんっ! な、なんでっ?』


 突如として起きた謎の大爆発。全身に大ダメージを負い、意識朦朧で立ち尽くすネル・フィードの目に映ったのは、メルデスの右手で嘲笑うかのように揺れる黄色の命の炎。


「さすがのあなたの目でも、ナノレベルの炎までは捉えきれなかったようですね……あははは……」


『ナノ、レベルだと……?』


「僅かに触れるだけで強力な爆発を引き起こすナノレベルの火球を、あなたの周りに瞬時にばら撒いたのです……」


『な……んだとっ? がはっ!』


 ガクンッ!


 全身を激痛がかけ巡る。ネル・フィードはたまらず膝をつく。


 黄色の命の炎は、その大きさを自由にコントロールでき、空気中に設置することも可能。ネル・フィードは攻撃を焦るあまり、その存在を見落としてしまった。


 シュボオオオオォォッ!!


 メルデスは、命の炎を再び虹色に切り替えた。


「私は絶対に負けません。見ていて下さい。マドレーヌ!」


 メルデスの視線の先には、聖書台に腰かける可愛い女の子のお人形があった。

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