第213話 至極の渦

『神を狩るですって?』


「そう。『ブスの神』を狩るよ」


 『ブス』に付け加え、『神を狩る』というハイメイザーをなめた発言の連続に、威無の怒りは頂点に達した。


『クソゴミミューバがぁっ───!! 心臓取り出して握り潰してやるわ────ッ!!』


 ギュンッ!!


 ズババババババッ!!


 シュンシュンシュンッ!!



 威無の鋭い爪を立てた高速の突きを、藤花は上半身の動きだけでかわすっ!


 ガシッ! ギュウウッ!!


『いったぁいっ!!』


 そして威無の手首を掴み、思い切り握る。ミシミシと骨が軋む音がする。その音を聞いて藤花は脳から快感物質が出るのを感じた。


(わ、私……ヤバい人になってる!? やだ、怖い怖い怖いっ……!)


 パッ……!


 藤花は威無の手首を放した。


『きぃぃぃぃいいっ!!』


 ズバッ!


 威無は上空へ逃げる様に飛び上がった。


『ななななっ! なんなのよッ! あれミューバ人でしょ!? アンティキティラじゃないんでしょ!?』


 自分の攻撃をかわすスピード、手首を握りしめる力とその迫力。その2つに、藤花の実力を見誤っていたかも知れないと思い始めた威無。


『そんなはずない……あの女からはミューバ人の悪臭がするもの。私はハイメイザーよ。ふっざけんなよ……』


 上空の威無を見ながら、藤花はまた何かに……いや、ハイカテゴリーの魂に突き動かされる感覚に突入していた。それはこう言っている様だった。


 『命の炎を全開にしろ!』







「うおわああああ─────っ!!」


 ブアオウッ! ブアオオオオッ!!


 紫の命の炎が、爆音と共に藤花の右手で暴れ出したッ!それは一気に加速し、ついに最大出力に到達ッ!!



 シュバアオオッ! ギュガガガッ!



 その紫に弾ける炎は、腕が消える恐怖を感じる間もなく、ある形状にその姿を変化させていたっ!!


「こ、これが……!? 紫の命の炎の……本当の力……ッ!?」


 ギュガガガッ! ズオオオオオオッ! ズビビビィッ!!


 藤花の右腕を覆い尽くす紫の炎は、その濃さを増し、至極しごくの渦を巻く。


 『腕が消える感覚』


 それはその『高重力』故だったのだ。藤花は驚きつつ、その『炎の渦』を武器として自在に操れる事を感じ取った。


 右腕に宿るそれは正に、『宇宙の暴君』そのものだった。


「す、凄い……こ、これは……」

(『ブラック・ホール』ッ!! しかも完全にコントロールできるッ! 信じられない……普通ならこの一帯全てを飲み込んでもおかしくないのに……これ、地球人の理解のレベルを遥かに超えてしまってるよ……でも……)


「これでいけるッ!!」


 ズオンッ!!


 右腕にブラック・ホールを携えた藤花の目には、屈折する事なく希望の光が差し込んでいた。

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