第212話 神狩り

『いったぁーい……けほけほっ! 今日って最悪な日だわ……マウント富士は雪の帽子被ってないし……口の中に土は入るし……ぺッ!』


 白目を剥いて倒れていた威無が、あっけらかんと目を覚ました。


 シュボオオオオオッ!!


 それに対し、藤花は再び紫の命の炎を燃え上がらせるッ!


 藤花はナナに言われた自分の中にあるハイカテゴリーの力が湧き上がってきているのをしっかりと自覚していた。


「ナナさん……」

(ナナさんの言ってた事は本当だ……今、ハッキリと分かる。最大級の窮地に立たされているから? それともハイメイザーの存在が影響している?)


 自分を覆う紫の炎が、とてもしっくりくる。正に体の一部と化している。今なら問題なく全力を出せる。そう、藤花は確信していた。


 だが、それと同時に湧き上がる『殺人欲求』……いや、違う。藤花は静かに自分の感情と向き合う。


(私は人を殺したいわけじゃない……この気持ち……分かった……私は……神を殺したいんだッ……ハイメイザー……それはもはや神と呼べる存在……それに対して私の魂が強烈に反応しているッ!)


 藤花の頭によぎった。魂の叫び。


 『神狩り』


 カテゴリー1の腐神程度では反応しきらなかった藤花の内なる力。ハイメイザーを前にして覚醒しつつあった。


「神を狩る……ね。分かったよ」


 とはいえ、威無をバラバラにして灰にする訳にはいかない。天使イバラの救出は藤花にとって最優先事項。


 『腐神の本体』を肉体を傷つけずに取り出す。そんな事ができるのか?藤花は頭をフル回転させたが名案は浮かばない。


 威無がイバラの肉体を出て、ナナの肉体へ亜堕無と共に入り込もうとしている事を藤花は知らない。


 そして、威無もわざわざ藤花を喜ばす事をする気がない為、イバラから出るのは藤花を殺してからと決めている。


 そんな中、ナナは昏睡状態となり、口を開けて大イビキをかき始めた。



『ふんがあっ! ふんぎゃあっ!』



「ナナさんっ!」

(脳への血流が低下して……! 無理もない、両腕切断……普通なら即、意識消失……なのに、私に何かを伝えようとしてた……やっぱ凄い人だよ)


『さあっ、もう許さないから。カテゴリー8のハリボテ戦士……腐神は腐神でもハイメイザーの私とまともに戦えるとでも思ってんの?』


「今のところ……あんたに負ける気はしてないよ」


『あっはははッ! 全くもってカテゴリー8が力を持つと、とんだ勘違いしちゃうんだねっ! かわいいなぁ♡ ハイメイザーはねっ! ハッキリ言って貴方たちみたいな低種族からしてみたら……もはや神なのよッ! 勝てっこないのッ!! 分かる?』


 ピクッ……


 藤花の耳が『神』に反応した。


「神……それはありがたい。きっちり狩らせてもらう……! この世から神は排除するッ!」

(あれ? なんか今、自分で喋ってる気がしなかった……不思議な感覚……)


 黒宮藤花の『神狩り』が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る