第211話 ブスの罪
威無はなにもなかったかのように立ち上がり、身に纏った白い布に付いた、土や枯れ葉を両手で払い除けた。
『あなた見覚えがあるわ。私の器の子を亜堕無から必死で守ってたのが、あなたじゃなかった?』
威無の発言に、藤花はあからさまに不快な表情を見せる。
「器とか言うのやめてくれる? もうたくさんなんだよね。腐神とか契約とか。天使イバラなんだよ、スーパーアイドルの。イバラちゃんの体から出ろよ。お前!」
ギョロギョロッ! ギョロッ!
威無のサードアイには、藤花の力が自分より上には見えていなかった。
『随分と粋がるじゃないのッ! この器は私のお気に入り♡ 全くもって出るつもりはないわ』
(格好だけアンティキティラのクソザコ女がッ!!)
「イバラちゃんは可愛いからね。気にいるのは仕方ないけどさ」
「うふふ♡ そうゆうことよ」
(本当はアンティキティラの女に移動するから言われなくても出るつもりだけど……)
「もう一度言う。出ろ」
「嫌よ」
(出ろと言われて出るのは
「イバラちゃんの体を傷つけたくはないんだよ。お願いします。その体から出て下さい」
藤花はゆっくりと頭を下げた。
『なにそれ? あはははッ! 土下座ッ! 土下座してよッ! そしたら考えるわッ!』
「本当? 分かりました」
藤花は地面に額をつけ、
ガッ!
威無はその藤花の頭を踏みつけ、何回も踵で蹴りつける!
ガッ! ガッ! ガッ!
『あはははッ! バーカ! 出るわけねーだろ! ザコの分際で私を蹴り飛ばした罪はミューバ1つより重いのよッ! 死になッ!』
ガッ!! ガッ!!
ガッ!! ガッ!!
威無は藤花の頭を蹴る力を徐々に上げていく。藤花の頭がどんどん地面にめり込む!
「イバラちゃん、ごめんね。このブス言っても分かんない。ちょっとだけ痛い目みせないとだめみたい……」
ガシッ!!
藤花は自分の頭を蹴り続けている威無の足首を土下座したまま掴んだっ!
『ちょ、放しなさいッ! な、なにっ? この力はっ!?』
藤花は足首を掴んだまま立ち上がる。そして威無の顔をまじまじと見て言った。
「可愛かったイバラちゃんがさ、お前が入ったせいでめちゃブスになっちゃってんじゃん。その罪の方が何倍も重いんだよ」
『わ、私がブスッ!?』
「もう一度だけ聞く。ブスはイバラちゃんから出る気はあるの? ないの? 10秒以内に答えろ」
1、2、3、4
『わ、私を……』
威無は美しいはずの自分がブス呼ばわりされたことにショックを受け、ワナワナしている。
7、8、9、10。
「ブス。10秒経った。返答がないと言うことで、イバラちゃんの中から出たくなるまで痛ぶるから。覚悟して」
『ブスじゃないっ! わ、私は……』
ブンッ!!
藤花は掴んでいた威無の足を真上に持ち上げ、手を放すッ!
『な、なにすんっ……!』
ズガッ!!
フワッ!
そして、反対の足を足払いッ!
瞬間、宙に浮いた威無の腹にドロップキックッ!
「せーのぉっ!!」
ズドォォォオ───ンッ!!
『うげぇッ────!!』
ズガンッ!!
バキバキッ!
ドォーン……!
ぶっ飛んだ威無がぶつかった大木が折れて倒れた。白目を剥いて倒れている威無を見て、藤花はスマホを取り出した。
「電波……ダメか!」
ギュンッ!!
藤花は上空へ。
「キタッ! 繋がった」
藤花は電話をかけた。
「もしもし、風原さんっ!」
『あっ! 黒宮さん、どうかしましたかっ!?』
「私、今富士の樹海でハイメイザーと戦っています。そして、ナナさんが瀕死の状態です」
『最強の彼女がですかっ!?』
「多分、なんらかの罠にはめられたんだと思います。杏子ちゃんの姿も見当たらないので治療することもできないんです」
『そ、そうなんですかっ! あっ、赤い歯車のタトゥーのことですよね?』
「はい。どうですか? ドスグロさん、かなり難しいと仰っていましたけど……」
藤花は4日前、西岡家でナナとドスグロに会い、10倍のパワーアップを果たし、自分の中にあるハイカテゴリーの力の存在を知った。
その日の帰り際、藤花はドスグロに赤い歯車のタトゥーをもう1回作って欲しいとお願いしていたのだった。
『先ほどドスグロさんから連絡が来て、なんとか材料が集まったので今から私の腕に施してくれるみたいですッ!』
「なんとか間に合いそうでよかったです。ナナさんに使うことになるかも知れません。ハイメイザーは、私が倒します」
『が、頑張って下さいッ! と、言うことしかできないのが非常にもどかしいのですが……』
「いえ、私も自分に『頑張って』って思っているんです」
『自分にですか?』
「いえ、なんでもありません。では、いってきます」
藤花は陣平を蘇らせたあの赤い歯車のタトゥーが再び施されるという朗報を聞き安堵した。
「さてと……」
(ナナさんにもしものことがあっても、これでもう大丈夫!)
シュ──────ッ! スタッ!
藤花は通話を終え、地上に戻ってきた。威無は意識を取り戻していた。
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