第210話 仁王

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ!!


『なんだかマウント富士がうるさくなってきたわね』


 亜堕無が富士山火口に向けて放った一夜猛烈精射撃ワンナイト・イジャキュレーションは、確実に富士山噴火の引き金になろうとしていた。


 ベチャッ! ベッチャッ!


『待っててね、亜堕無♡ いま私もこの器から出るから』


 威無はそう言うと、上を向き、口を大きく開けた。




 その時ッ!!




 ドガァァ─────ンッ!!




『うぎゃああ────ッ!!』



 ズザザザザァァアッ!!


 威無の後方から光線の如く蹴りを喰らわせた人物がいた。その凄まじい威力で威無はふっ飛んだ!


 スタッ!!


『おがっ……?』


 ナナは目の前に着地したその人物を見上げた。


 シュボオオオオォォッ!!


 その人物、紫の炎に身を包み、怒気のほとばしる視線を腐神に向ける。その姿、正に仁王におう



 ブラック・ナイチンゲール最強。


 黒宮藤花、見参ッ!



「すみません、ナナさん。もう少し早く来るべきでした。虹色のXを私は使えません。傷の回復ができなくて申し訳ありません」


 そうナナに話しかけながらも、視線を威無から一切外しはしない。両腕を失い地面に倒れるナナ。その絶望的状況がなにを意味するのか、藤花は痛いほど理解していた。


『もう自分しかいない』


 自分がやられたらこの世界は終わる。シヴァがない現在、アンティキティラのワールドリセットも起きない。新たなシヴァが設置されるまで、腐神による傍若無人がしばらく続く。そんな恐怖の時間を今の世界にもたらす訳にはいかない。


『確実に殺る!』


 藤花の心の中にはそれしかない。とはいえ、アンティキティラ最強、脅威のX量690万、ナナ・ティームースの無残な姿を見れば、そんな簡単に打破できる状況ではないことは明らか。


 いかに自分の中にある得体の知れない力を解放できるか? 爆発させられるか? それを信じ、それに期待するしかなかった。


『おおが……!』

(トーカ! くそっ! 声が出せん! 奴の能力はXをかき消すのだ!)


「ナナさん。私、お母様を殺された時もブチキレてXを暴発させたんですよ。でも、その時は腕が重くなって残念ながらろくに戦えなかったんです」


『がっ……』

(母親を……殺されてるのか?)


「でも今はその時とはちょっと違って凄く冷静で、なのに凄いんです。あの時以上なんです」


『んがっ……』

(感じる! 謎のハイカテゴリーのパワーッ! トウカ!)


 藤花は薄ら笑いでナナを見下ろしながら言った。


「殺したいっていう衝動が止まらないんですよ。私、どうしちゃったんだろ?」


『うがっ!』

(なぜだッ? あの時はこんな邪悪な力は感じなかったのに! こ、これは猛烈にヤバいのだッ! なにが起きているッ!?)


 頭を押さえながら、威無がゆっくりと起き上がり始めた。その目は3つとも、不気味な紫炎に包まれる黒宮藤花を睨みつけていた。

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