第209話 新たな興味

 ナナは出血多量により顔が青ざめ、全身に力が入らなくなってきた。


『はあっ、はぁ……』

(目が霞む。止血したいが虹色のXでの治療には手がないと。くそぉ……)


 シュボォオォオオウッ!!


 威無は青の命の炎を身に纏い、苦しみもがく亜堕無に冷気を帯びた手の平をゆっくりとかざした。


『亜堕無、さようなら。全くもって、あなたがクズに見えてきたわ』


『きさま、亜堕無になにをするつもりだ?』


『気やすく呼ばないでくれる? 亜堕無は私の物なんだから♡』


 シュボォォオオッ!!


 手の平の命の炎が勢いを増すッ!!


『威無、やめて……ガハッ!』


『さっさと凍った方が楽チンよ♡ じゃあね!』


 キラン⭐︎


 威無は亜堕無にウインクをした。


『威無っ!? 分かった……』


 ブアオウッ!!


 バキバキバキバキィィイッ!!


 亜堕無の体は一瞬で凍りついた!


『じゃあね♡ 亜堕無』


 ガッシャ─────ンッ!!


 氷漬けにされた亜堕無は、細かな氷のカケラと化し、蒸発しながら樹海へと落ちていった。


『大切なパートナーを、そんな簡単に殺すとは……きさまには回復能力はないということか……あれば私も治して欲しかったがな……』


 脳への血流が極度に低下したナナの思考は、ついに混濁し始めた。


『回復能力? そうね、いまの私のままじゃ、ないわね』


『どういう意味だ……?』


『質問は手を上げてから……あっ、手なかったわね。ごめんなさーい!』


 そう言って威無は、腕のない意識朦朧のナナに襲いかかる!


 ズバッ!! シュバッ!


 ズバッ! ギュアッ! ブンッ!


 威無のするどい蹴り、パンチ。ナナは辛うじてかわし続けていたが、もう限界だった。


『あ……!』

(も、もうだめだっ!)


 フラリッ


『イモムシがぁっ!』


 ズゴォッ!!


『ふぎゃっ!!』


 威無の踵落としがナナの頭に見事に炸裂。その威力に耐えきれず、ナナは地上へと猛スピードで落下していった。


『よきよき。新たなショーを思いついちゃったわけなのよ♡』


 ズドォォ─────ンッ!!


 ナナはもちろん着地することはできず、頭から地面に叩きつけられた。


『がはっ……!』


 そこへゆっくりと威無は降下。ナナの生存を確認すると、なぜか安堵する表情を見せた。


『うふ♡ 生きてる、生きてる』


『なぜ私を殺さない……? 力を抜いたな……なにを企んでいる?』

 

 ナナは既に死を覚悟している。そんな彼女に威無は、死よりも恐ろしいサプライズを告げた。


『あなたには……私たち2人の器になってもらうことにしたの♡』


『器だと……!?』


 ドロドロッ! ベチャッ!


 その時、木の影からドロドロの腐神の本体が姿を現した。


『私の意図をちゃんと理解してくれて偉いわ。亜堕無♡』


『生きていたのか……!』


 ベチャッ! ベチャッ!


 亜堕無は威無に凍らされる瞬間、すばやく本体を足先に移動。威無は亜堕無の本体は傷つけないように、足先だけは粉々にはしなかったのだ。


 凍結攻撃直前の威無のウインク。それを見た亜堕無はすべてを理解し、行動に移したのだ。


『アンティキティラの体と私たち2人が同時に契約したら、どうなるのかしらね?』


『ふざけるな……! ミューバ人以外に腐神が取り憑くなど、しかも2体同時だと……? ありえん!』


 ナナは今までに経験したことのない恐怖に襲われていた。ひとりの人間に2体の腐神が同時に契約するという狂った発想。聞いたこともなかった。


『実は私と亜堕無はもともとひとつの生命体だったの。名をダリアナと言ったわ』


『ダリアナ……?』


『ダリアナの中には男と女の2つの性が存在していた。性別のないエデルにとって、ダリアナはエラーだったの』


『エラー? そういうことか……』


『ハイメイザーは絶対的存在。男女もなければ愛もない。それらはすべて無駄なのよ。でもね、ダリアナは2つの性の間に快楽が存在するということに気がついたの♡』

 

『がはっ……!』

(死ぬだけならまだしも……私が腐神になるわけにはいかない!)


 ナナは舌を噛み切ろうとした!


 ビキィィィィンッ!


『うがっ……!?』


『死なせないわよ。貴重なカテゴリー2の肉体。ミューバで出会えるなんて奇跡だもの♡』


 威無のサードアイの怪しい光が、ナナの動きを完全に封じ込めた。ナナは舌を噛み切るどころかしゃべることもできなくなった。


『うう……』

(本来の力があれば、こんな念力ごとき。トウカ、後は頼む……)


『SEXはこの7日間で十分楽しんだわ。いま最大の興味はね、私たちとカテゴリー2の融合が、どんな快楽をもたらしてくれるのかというものに変わったの。あなたの存在にはとても感謝しているわ。ありがとう♡』


『ぐが……』

(こんなことになるとはっ!)


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ!!


 富士山からの地響きは、徐々に大きくなってきていた。

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