第208話 蜘蛛の糸

 シュボォォオオッ!!


 唸るナナのXを見ても、亜堕無は余裕綽々よゆうしゃくしゃくだった。


『腕のない君を見ているだけで、僕はこんなにも勃起してしまうよ。やっぱり僕は変態なのかな?』


 亜堕無は勝利を確信、


 カチッ!


 煙草にも火をつけだした。


『ふう〜、うまい。煙草がうまい。肺が興奮と幸せで満たされていく。勝つことが決まっている勝負とはつまらないと言うが、こんなに楽しいじゃないか。威無の望み通り、残った頭と足も切り離してあげるよ♡』


 亜堕無は吸っていた煙草を捨てた。ナナは痛みに耐えながら、亜堕無の攻撃に備え、漆黒のXを巧みにコントロールしていた。


『ぷにぷにの太ももから切断させてもらう。苦痛と絶望で歪む君のエロい顔を見たいんだ♡』


『やってみろ。お前の期待に答えられるかは分からんがな……』


『ああっ♡ もうダメだ、イキそうたあ、バラバラショーのスタートだ───ッ!』


 グワアアアッ!


 亜堕無が両手刀を振り上げたッ!


 それと同時にナナは動くッ!!


 シュルルルゥッ!! ボウッ!


『捕獲ッ!!』


 ───ビシィッッ!


 ──────ビシィッッ!


『なんだとっ!? う、腕がッ! 動かないっ!!』


 ナナは全身に纏った漆黒のXを、真珠のメデューサの大蛇おろち化とは逆、蜘蛛の糸レベルにまで細くして、気づかれないような亜堕無の周囲に張り巡らせていたのだった!


 両腕を失ったナナに対し、亜堕無は完全に油断していた!



 ギリギリギリギリッ!



『腕も、足も動かんッ! なんだこれはぁっ!?』


 グググゥ……!


 亜堕無の四肢が大の字に広げられていくッ!



『死ね、腐神ハイメイザ……!』


『どうするつもりだあ──ッ!?』


光神天翔ディバイン・ライトニング・ブレイクッ!!』


 ビッシュウンッ!!


 ナナは光速移動で蹴りを放ったッ!


 ズドォンッ!!!!


『ごはあああッ!!』


 ナナの蹴りは防御不能の亜堕無の腹を貫通ッ!


『殺処分……完了。消え失せろ!』


 ズボァ……!


 ナナが足を引き抜くと、亜堕無は血を吐き苦しみだした。


『な、なんてことだ……腕のない状態でそんな攻撃を仕掛けてくるとは……がっはあっ!』


『お前も油断したな……わ、私も油断したせいで……このざまだしな……情けない……』


 ナナは霞む目で威無を見た。


 威無は亜堕無が死ぬ間際だというのに、焦ったり悲しんだりしている様子は特に無かった。


『威無……お前のサードアイには……私のXが見えていた筈だ……なぜ亜堕無に伝えなかった?』


 威無は表情ひとつ変えることなくその問いに答えた。


『あなたの炎から作り出した蜘蛛の糸が非常に美しかったから、見惚れていたのよ♡』


 『楽園エデルには愛情がない』


 ナナは薄れゆく意識の中で、それをハッキリと感じていた。

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