第207話 そこに愛はあるんか?

 亜堕無の演技に騙されて油断したナナは、無の能力で気配を消し、忍び寄る威無に気付けなかった。両腕を切断されるという最悪の事態を招いてしまったのである。


 ブシュウッ!


 出血はもちろん、その痛みも尋常ではない。アンティキティラの戦士の中でもトップクラスの忍耐力と精神力を誇るナナ・ティームースでなれけばあっさり失神、もしくは戦意喪失に陥るレベルだった。


『君は純粋な子なんだね。目で分かるんだよ。狂気に満ちているのかと思えば、ふとした瞬間に見せる人懐っこい子供のような目。つけこむ隙は十分にあると判断した』


『私としたことが私情を挟んでしまったな……』

(急がないと、意識が持たん……)


『さあ亜堕無ッ! 頭も足も全部胴体から切り離して! バラバラショーを見せてちょうだい!』


『OK。興奮してきたよ!』


 亜堕無の手刀がまばゆく輝き始めた。それを見たナナは、麗亜のお気に入りのCMを引用して問いかけた。


『エデル、そこに愛はあるんか? 答えろっ……!』


『愛? そんなものはない。無論、僕たちも愛なんてものは不必要だと思っている』


『愛は不必要だと? 貴様、さっきと言っていることが違うじゃないか!』


 亜堕無は腰に手を当て、首を左右に振り、呆れた様子だった。


『いいかい? 愛なんてものは、結局のところ支配や独占欲にまみれ、憎悪を生み出すエゴの塊。表面をさも美しく、さも尊く、コーティングされてはいるが、自己満足にすぎぬ愚かな感情なのさ』


『なかなかの持論を展開するではないか……』


『持論などではない。一般常識だ』


 亜堕無は続ける。


『それに比べSEXはどうだ? 純粋なる快楽。種の保存などという大義名分がなくとも人はSEXをする。SEXなどしなくても生命を宿し、産み落とすことは可能。それでも人は気持ち良くなる為だけにSEXをする。僕たちもそれを味わいたかったのさ。最高の快楽を、最低の肉体でね……!』


 もこっ


 亜堕無の股間が膨らみ始めた。


『よく分かった。ハイメイザー亜堕無と威無! 貴様らはミューバ人よりも下等な生物に決まりだ……!』


 ボボォンッ!!


 ブアオッ!!


 ナナは全身に漆黒のXを纏った!


『蹴りだけで僕を倒すつもりかい? 間抜けにも程がある。腕がなければ蹴りの威力も半減する。人体とはそういうものだ』


 シュウウウウッ!


 ボボォンッ!!


 ナナはXの威力を更に上げた!


『倒す? ふざけるな。死んでもらうぞ。貴様らにミューバをくれてやるつもりはない!』


 無駄な抵抗、悪あがき、負け犬の遠吠え。亜堕無も威無も、今のナナに対し、特に警戒はしていなかった。

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