第206話 シンパシー

 腐神、亜堕無の告白にナナは困惑ぎみだった。


 目の前にいるハイメイザーは、『苦痛しか生まない』とまで言い切った肉体を手に入れてまでSEXがしたくて腐神になった。


 肉体のない精神世界からSEXが1番の目的でミューバにやって来たのだ。


『なんとも言えない理由だが、生物に備わっている『欲』というものだからな……』


 『欲』


 ナナは自分が『食欲』に支配されてミューバにやって来たということを自覚している。その『楽しみ』を失いたくないが為に、アンティキティラを抜ける覚悟を持ってやって来たということも。


『カテゴリー1になりたくない』


『肉体を失いたくない』


 そんな考えがナナの中には充満していた。ハイメイザーは生まれ持っての精神生命体。元々、肉体を持たぬ存在。そんな彼らが肉体に憧れを抱き、自らの意志で腐神にまでなり、エデルを捨て、ミューバに降り立ったのだ。


『エデルに不満があったのか? エデルではSEXに近い行為はないのか?』


 ナナはハイメイザーの謎の私生活について質問を投げかけた。


『エデルには愛という概念がない。僕と威無が愛し合うことにもまるで理解がない。僕たちがエデルに生まれたことはエラーらしいんだ』


『愛がエラー? とんだ楽園だな。少なからず同情する』


 ナナは自分の食欲のことと重なり、本来『尊い物』とされるべき『愛情』を受け入れないというエデルの思想に強い反発心がこみ上げていた。


 亜堕無はナナの言葉に感謝するように頭を下げ、肩を震わせ泣いているようだった。


『君は僕たちの気持ちが分かってくれるんだね。愛が素晴らしいって。ハイメイザーにもあっていい感情なんだって……』


『もちろんだ。私だって美味いものがない世界なんて考えられないのだ。SEXだって愛を確かめ合う大切な行為だ。誰でも持っていていい感情、ハイメイザーであったとしてもな』



『君は、君って人は……』





























『なあんて馬鹿なんだあッ!! あっはははあ────ッ!!』














『──────!?』



 ブシャアッ!!


 ブシャア────ッ!!



















『亜堕無♡ 素敵な演技だったわ。全くもって惚れ直しちゃうわね♡』








『ぐあっ、あああっ!! うぎゃああ───っ!!』




 静かに凍った体を溶かし、ナナの背後に忍び寄った威無は、ナナの両腕を切り落とし、高笑いしていた。


『あっはははっ! 無様っ! 無様すぎるぅっ! あっはははっ! 両腕がなくなったらあの炎も使えはしないものねぇっ? 私の『無』の力は気配も消せるのよッ! あなた弱くはなかったけどかなりのおバカだったわぁッ!! あっはははッ!!』


『ぐっ、この! 全部、嘘かっ!?』


 ブシュウッ! シュウウッ!


 ナナの出血はおびただしかった。

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