第205話 1番の目的

 凍りついた威無を見ながら、亜堕無はなにかを決意したかのように、ゆっくりと語り出した。


『君は僕の能力を次々とはね返し、理性を保った。それは驚きでもあり、尊敬にも値する』


 亜堕無の意外なセリフにナナは意表を突かれた。


『まっ、私以外の女では振り切れはしなかっただろう。それは認めよう』

(なんだ急に? 殺気が消えたぞ)


『僕も君との実力差が分からないほどバカではない。君を快楽の罠にかけ、その隙に命を奪う。それが僕の唯一の勝機だった……』


 亜堕無は徐に煙草を咥えた。


『確かにラブルームとかいうのに引きづり込まれた時はヤバいと思ったからな』


『もう君を愛光魅室ラブルームに誘うことは不可能。神聖尻鞭打ヘヴンリー・スパンキングに至ってはなんの効果も得られず。僕にはもう君を殺す手立てが無い。お手上げってわけだ』


 カチッ!


 亜堕無は煙草に火をつけ、目を瞑り、両手を上げながら言った。


『どうした? ミューバを貴様らの楽園にするのではなかったのか?』


 ナナは警戒レベルを上げながら話しかける。


『ふう〜……楽園に、か』


『諦めたのなら、痛みを感じる間も無く殺処分してやる。だが、私はなぜ貴様らが腐神に堕ちてまでミューバに来たのか、理由が知りたいのだ。今後の宇宙の為だ。話せ』


 頑なに話したがらなかった『それ』を振ってみて様子をうかがう。


『それもデータってわけかい? 分かったよ。君の強さに敬意を表して、エデルについて話してあげよう』


『いい心掛けだ』

(妙に素直だな。なにが起きた?)



 亜堕無は、自分たちのことについて話し始めた。


『全宇宙の始まりの地、エデル。そこは完全精神世界。肉体は存在しない。そこに住まう我々ハイメイザーは全宇宙を統治する存在だ』


『それはよーく存じ上げているぞ』


『精神生命体とは生命が本来あるべき姿。肉体など苦痛しか生まない』


『だから全生命は肉体から解放される為にカテゴリーを上げようと必死だ。ミューバの人間ぐらいか? それを知らずに生きているのは』


『ミューバはゴミ星だが、利用価値は様々ある。その最たるものがカテゴリー2がカテゴリー1に上がる為の最終試験場としての利用だ』


『我々カテゴリー2から言わせてもらえば、なんともかったるいシステムなのだ。未熟なミューバ人に腐神を殺処分させなくてはならないのだからな』


『腐神……カテゴリー1の不届き者な訳だが、不覚にも彼らと同じく、僕にも芽生えてしまったんだ。ある感情がね……』


 亜堕無は大きく煙草の煙を吸い、気持ちよさそうに吐きだした。


『その感情、カテゴリー1の腐神が抱くものとの明確な違いはあるのか? 殺戮や破壊、そう言った類の野蛮な行為ではないとでも言うのか?』


『僕たちは特に野蛮な破壊行為がしたかったわけじゃない。僕たちの1番の目的は肉体を手に入れて、思いきりSEXをすることだったんだ!』


『SEXだとっ!?』


 ノーパンのナナの股間を、夏の湿った風が吹き抜けた。

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