第422話 パスワードGET
マルウェア、FRY。
それは、エミリーのスマホから、ペッケのパソコンのセキュリティをあっさりと潜り抜け、とっても貴重なAVのデータを暗号化してしまった。
強制的に再起動させられたデスクトップの壁紙は、巨大なハエの画像に置き変えられ、それと同時に表示されたのは、ありがちな脅迫文とタイマーのカウントダウン。
「なになに? 仮想通貨で金を振り込めじゃと? でなければ、ファイルどころか、パソコン自体が完全に破壊される? ふん。馬鹿にしおって!」
そんなイキッた不届者を、天才ペッケが許すはずはない。
ガラッ!
ゴソゴソ
ガチャリッ!
ペッケは引き出しからUSBメモリーを取り出すと、手慣れた様子でパソコンに差し込んだ。
「やれやれ、余計な作業を増やしおってからに。ばかたれがっ!」
カチャカチャカチャカチャッ!
カチャカチャカチャカチャッ!
カチャカチャカチャカチャッ!
カチャッ! カチャッ!
FRYとの格闘は30分以上に及んだ。
「ふおおーっ! 美人OL嬉し恥ずかし残業性交パート2新入社員編っ! カムバッークじゃあーっ!!」
ブオオオオオオオオオッ!
パンッ!!!
ペッケはエロ情念と勃起魂を、何人もの女を快楽に沈めてきた、そのエクセレントな指先に込め、思い切りエンターキーを叩いたっ!
「お、終わったわいっ!」
「おじいちゃん、大丈夫? どうなったの?」
アイリッサは普段よりも鼻息の荒い祖父の姿に頼もしさを感じつつ、慣れない作業で老体に負担をかけたのではないかと少し心苦しかった。
「ハエは退治した。無事に美人OL嬉し恥ずかし残業性交パート2新入社員編も復活できた。任務完了じゃ!」
「おじいちゃん、ありがとう。ゆっくり休んで。後で肩揉んであげる。疲れたでしょ?」
「いやいや、自分の力を信じ、絶対に諦めない。その強い気持ちが、負けない心が、よりよい結果をもたらしてくれたのだと思っとる。とても貴重なものだったからのう。美人OL……」
「んもう! 嬉し恥ずかしは全然! 別に! はっきり言って! どーーっでもいいのよ!!」
「…………ほへっ?」
「ロックっ!! スマホのロックは解除できたわけ!?」
「あっ! そうじゃった。も、もう少し待っておれい!」
「もうっ……さっさとして!」
アイリッサの心苦しさは、秒で消えた。
そこからのペッケによる解除作業は軽やかだった。コーヒーと煙草を交互に味わいながら、鼻歌混じりで20分かからず、ロック解除のパスワードに辿り着いた。
「アイリッサ、これじゃ。メモっとけい。褒めて褒めてっ♡ うふーん♡」
「ありがとね、おじいちゃん。本当に大感謝だよ。今夜は大好物のお寿司とってあげるからね」
「寿司? 久しぶりじゃあ♡ いっくら、うーに、まーぐろじゃあ!」
アイリッサは最新機種の複雑なパスワードをメモし、ケーブルからエミリーのスマホを外した。
スチャン!
「ネルさん、リーナ、お待たせ」
ついに、ロック解除の時が来た。
闇の能力者、Judgment、さらに、元凶パウル・ヴァッサーマンに関するなにかしらの情報を、3人は入手することができるのだろうか?
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