第423話 残りの2人

 ペッケがマルウェアFRYとの死闘に勝利し、ついに手に入れた12桁のパスワード。アイリッサは、それを間違わないよう、慎重に打ち込んでいく。


「ERR……499……81とっ!」


「どうじゃっ?」


「開いたっ! さっすが、おじいちゃん! 天才ーっ! からの変態っ!」


「あはははっ! さすがじゃろっ! んっ? 変態?」


 ロックが解除されるのと同時に、スマホの画面に映し出されたのは、不気味な音と共に、複雑な線や記号で構成された謎の魔法陣。


 ブオオオォォ……ンッ!


「やだやだ、怖ーっ!」


 アイリッサは、その危険な香りのする奇妙なアプリを慌てて閉じた。すると、黒い炎のアイコンの下にアプリ名が表示された。


『Dark Souls seal』


「ダークソウルを封印? こんなアプリまであるのっ?」


「なるほど。そのアプリを使って、リーナのダークソウルを回収するつもりだったのか……」


『そうなの。だから、ふざけんなーって、エミリーぶっ倒したのーっ!』

(ダークソウル回収アプリか……ひょっとしたらパウル様は、私が裏切る事も想定内だったのかな。あの黒髪のお姉さんがいなかったら、私、余裕で死んでたし……)


 黒髪のお姉さんことミロッカに改めて感謝したエルフリーナは、報復の名の下に、いつ、誰が、自分を殺しにやって来てもおかしくない事を、同時に覚悟した。


 『Dark Souls seal』を閉じたエミリーのスマホを、軽く罪悪感がまとわりつく指で操作するアイリッサ。


「こ、ここはまず、LINEのトークから調べるのが鉄則ですよね?」


「ですね。誰と繋がっていたのか、さらに今後、何が起きようとしているのかが、明確になるといいのですが」


 本来ならばあり得ない、他人のスマホの個人情報を盗み見るという、非人道的行為。しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。


 エンジェル・アイリッサは、世の為、人の為、良心の呵責にゴッチ式パイルドライバーを炸裂させ、正義の道を突き進む勇気を手に入れた。


「何がでるかな、何がでる……」

(な、なに? このドキドキとスリリングとサスペンスな感覚はっ? なに? なぜか頭の中に、大きなカラフルなサイコロを持った禿げたおじさんが出てきたっ! そ、その横に黄色いライオンが立ってるーっ? なによこれ、ぷひーっ!)


 悪行とは無縁で生きてきた彼女は、変な興奮状態となり、脳内と感情がバグり気味。それでも、手にした勇気を込めてLINEを開く。すると、エミリーの華やかなイメージとは異なる、ごく少数の名前が表示された。


「これって、組織専用のスマホっ?」


『お姉たま、正解。実は私も渡されてる。やり取りをしたのは、エルリッヒとメルデス神父だけだけど、他の闇の能力者とも一応繋がってる』


「そうなんだ。ちなみに、パウルとは繋がってないの?」


『うん。私のスマホには登録されてなかった』


「アイリッサさん、そこに登録されているのは闇の能力者だけですか?」


 エミリーと繋がっている組織の人物の名前を、アイリッサは順に読み上げていく。


「エルリッヒ、メルデス神父、エルフリーナ、ホラーバッハ、小濱宗治、ピンクローザ、ここまでは聞いた事のある名前です……」


「その先は……?」


「聞いた事のない2人です」


『きっとそれ、残りのJudgment だよ。あんな強いのがあと2人もいるとか、マジでヤヴァすぎ……』


 アイリッサは、Judgmentと思われる、残り2人の名前を読み上げる。


「1人目、セレン・ガブリエル」


「セレン? なんか聞き覚えが……」


『お姉たま。セレンって、確かネオブラの教祖の名前だよね?』


「うん。きっと、このセレン・ガブリエルがネオブラの教祖なんだよ。やっぱり繋がってた。許さないっ……!」


 アイリッサのスマホを持つ手が、セレンへの怒りの感情で冷たくなる。


「アイリッサさん、ひとまず落ち着きましょう。もう1人も教えてもらっていいですか?」


「は、はい。2人目は、えっと…… 獅子ヶ辻ししがつじ空白くうはく? この名前って……」


「その響きは、ジャポンの名前ですね。小濱君以外にもいたのか」


「ししがつじ? はて? どこかで聞いた事のある名じゃな? 忘れてもうたが……」


 アイリッサは、ひとりひとり、LINEの内容を確認していく事にした。


「誰から見ていこう? やっぱりセレンからかな……」


「アイリッサさん」


「は、はい、なんですか?」


「よければ、小濱君からチェックしてもらってもいいですか?」


「え? どうしてですか?」


 ネル・フィードは、がずっと気になり、心の中に、蜘蛛の巣が張ったようなモヤモヤが蓄積していた。


「エミリービューティークリニックから出てきた、2人の患者がいたじゃないですか」


「あっ! いましたね!」


『目ん玉飛び出して、ヨダレ垂らしてた、ヤヴァいギャル達だねっ?』


「あれはどう考えてもおかしい。小濱君の『美醜逆転脳』の何かが、関係しているんじゃないかと思うんです」


「分かりました。見てみますっ!」


 Judgmentエミリーと、闇の能力者 小濱宗治。2人の間で、何が取り行われていたというのだろうか?

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