第421話 FRY

「じゃあ、2人ともあがって」


「おじゃまします」


『おじゃでーす♡』


 こうして、ネル・フィードとエルフリーナはエーデルシュタイン家にお邪魔する事となった。そして、リビング兼、ペッケの作業部屋に通された。


 やはりそこも、彼の趣味の物で埋め尽くされていた。旧型から新型までのパソコンが数台、見慣れない大小様々な工具の数々、種類豊富な筆記用具、特殊な定規類、謎の設計図、などなど。


 ペッケはエミリーのスマホとパソコンを、見たこともないゴツめのケーブルで繋いだ。


「どのくらいかかりそう?」


「1時間もあればいけるじゃろ。で、一応 確認するが、これは誰のスマホなんじゃ?」


 アイリッサはネル・フィードと目を合わせる。そして、互いに頷いた。


「ロック解除してもらう訳だし正直に言うね。そのスマホ、悪人のものなの」


「悪人じゃと?」


「そう。悪の秘密結社の情報が入っているの」


「秘密結社っ?」


「おじいちゃんも覚えてるでしょ? ネオ・ブラック・ユニバースの事」


「もちろんじゃ。なんじゃ、これはネオブラと関係しておるのか?」


「その可能性が高い……ってこと」


「なるほど。そうじゃったか、分かった。任せておけ」


「ありがとう。よろしくね!」





 カチャ、カチャカチャカチャ!


 ペッケは咥えタバコで作業に取り掛かり始めた。


「2人ともコーヒーでいい?」


「あ、ありがとうございます」


『コーヒー大好きー♡』


 アイリッサは、部屋の隅のダンボール箱から缶コーヒーを4本取り出すと、2人に手渡した。そして、作業中のペッケの側にも優しく置いた。


 パコッ


 ゴクリッ


「うまいっ!」


『うん! おいしい♡』


「おじいちゃん、これしか飲まないんだよ。BOSSの微糖」


「男のこだわりですね」


 カチャカチャカチャッ


 カチャカチャッ!!


 順調に解除作業を進めていたペッケだったが、突然その手が止まった。


「なんじゃ、これはっ!?」


「ど、どうしたの? おじいちゃん」


「何かあったんですか?」


『おじいたまっ?』


 3人とも、ペッケの後ろからパソコン画面を覗き込んだ。そこには大量の蛆虫うじむしうごめいていたっ!


『こ、これって……』


 エルフリーナは何かを知っている様子。ネル・フィードは、彼女に何が起きているのかを確認する。


「リーナ! これが何か知ってるのかっ? お、教えてくれ!」


『マルウェア、FRYフライ。大事なデータが全部暗号化されちゃう。パソコンも正常には作動しなくなる!』


「マルウェア? FRYだって?」


 それを聞いたペッケは、納得した顔でタバコをふかす。


「コンピューターウイルスか。やはり悪人の持つ物じゃからな。そんな可能性もあるとは思っておったよ」


「ペッケさん、大丈夫なんですか?」


「このパソコンには、たいしたデータは入っておらん。気にせんでいい……ん? ああっ!!」


「ど、どうしたの? おじいちゃんっ! 何かまずい事でも?」


 ペッケは青ざめ、タバコを持つ指が震え出した。


「こ、このパソコンには、そういえば……わしの大好きな、もう二度と手に入らない超貴重なジャポンのAVがっ……!」


「はあっ? なーんだ、そんな事かぁ、脅かさないでよっ! ぷひー!」


『おじいたまのえっちぃ♡』


「美人OL嬉し恥ずかし残業性交パート2新入社員編……どないしよ」


 悲しむペッケの目の前で、蛆虫たちは次から次へとはえになる。そして醜く画面を飛び回り、見るも無惨にデータを暗号化していった。


「ペッケさん……」


 ネル・フィードだけは、ペッケの胸を抉るような悲しみを理解していた。

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