第272話 黒い龍のタトゥー

 ネル・フィードは持ち前の格闘センスで小濱宗治の言う『剣は体幹で振る』をあっという間にマスターした。


『あ、ありえんって!! ど素人が免許皆伝の俺の技を破るとか、さっきっからあんた、マジでなんなんだ? 人間じゃねぇだろっ!!』


 自慢の剣技を破られ、小濱宗治は動揺が隠せない。そんな彼にネル・フィードは紳士的に語りかける。


『君は強い。そんな君が具現化した泰十郎たいじゅうろうも可憐も強かった。ジャポンには様々な素晴らしい理念があると聞く。武道を追求してきた君ならそれらに触れる機会は多かったはずだ。小濱君、悪魔の力を捨て、強く生きるんです!』


『う、うるさいっ! も、もう俺にはどうしようも……っ!』


『人間として生き、人間として死ぬ。そうあるべきだ。死は決して恐ろしいものではない。目を覚ますんだ!』


『黙れえっ!! お、俺はまだ死にたくないんだよ! これからの人生、俺は自由に生きるんだあ!!』


 ズゴゴゴゴォォオッ!!


 小濱宗治を包む闇の大きさが増す。さらに悪魔化が進む!!


『パウル・ヴァッサーマン! お前の罪は俺が裁くッ!!』


 シュゴオオオオオッ!!


 ネル・フィードもダークマターを更に放出。決めにいく!!


『がああああああああっ!! こ、これが悪魔の力全開放だあ! これがディストピアを創生する力なんだ!!』


『私たちはいつまでもこの異空間にいるつもりはない。決着をつける。覚悟して下さいッ!』


 ズギュアアアアッ!!


 ネル・フィードがダークマターの剣を構える!


『俺はもう、あんた相手に剣なんて使わないぜぇ……』


 そう言うと、小濱宗治は右腕のロンTの袖を捲り上げた。


『それはっ? 君は怪我を?』


 ネル・フィードは驚いた。小濱宗治の右腕、肘から下には包帯がぐるぐる巻きになっていたからである。


『馬鹿、ちげぇよ。俺はこの右腕に飼ってるわけよぉ。魔界の暗黒の龍をさぁ……』


『あ、暗黒の、龍?』


 説明しよう。小濱宗治は悪魔の力を授かる前から中二病だった。それがこの無限階段の異空間インフィニット・ステアケース内では最高の力を発揮する原動力となるのだ!


『一瞬で終わらせてやる! no art, no lifeッ!!』


 ベリベリッ!


 シュルシュルシュル……


 小濱宗治の右腕の包帯が解けていく。そこには黒い龍のタトゥーが施されていた。


 ゴオオオオオオッ!!


 ダークソウルと思われる炎が右腕を包み込み始めた。


『確かに凄いパワーを感じる。生半可なことをしていては流石の私のダークマターの肉体も消滅させられそうだ』


 闇の能力者、小濱宗治、最大の奥義が炸裂する!!


『喰らえっ! 極黒ごくこく邪龍じゃりゅう滅殺めっさつぁあ──────ッ!!!!』


 小濱宗治の中二病満載の技名と共に、具現化された極黒の邪龍が右腕から解き放たれたッ!!


『ガオオオオオォォッ!!』

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