第352話 アンネマリー
私の名前はアンネマリー・ヴァルギナ。優しい両親と幸せに暮らしていた。でも、そんな記憶は5歳まで。ある日、幼い私は両親が自分のことで揉めているのに気づいた。
「やっぱりそうだったのか。どうりで全く俺に似てない訳だ」
「……ごめんなさい」
「俺はお前が他の男と快楽に溺れた末に出来たガキを育てるつもりはない。出て行く。離婚だ!」
「あなた、ごめんなさい。ごめんなさい。だからっ……」
「おかしいと思ってたんだ。DNA鑑定して正解だったよ。仕事の忙しさとお前の猿芝居のおかげで5年も無駄にしてしまった」
「離婚はっ、私たちどうしたらっ!」
「そんなことは知らないよ。俺にも幸せになる権利はある。ここに それはない。分かるだろ?」
「そうだけど……ああっ!」
「俺は慰謝料も請求しなければ、お前を殴りもしない。最後の最後まで良き夫でいてやるんだ。離婚に応じるのはお前の最低限の人としてのマナーだ。そうは思わないか?」
「あああっ……!」
私の父はその日からいなくなった。母とふたりの生活が始まった。寂しくなんてなかった。寂しくなんて。
ぷちぷち……
その頃から私は庭で蝶を捕まえては羽をむしり取ることが趣味になった。優雅に美しく飛び回る蝶が、羽を失くして地面を歩く姿が実に滑稽だった。
「あははっ! ウケる!」
羽を失くした現実を蝶はどう受け止めているのだろう? そして6本の足で歩いてどこへ向かっているのだろう? 蝶は私のことを恨んでいるに違いない。そう思ってもやめられなかった。
ぷちぷち……
そんなある日、私は急に足に力が入らなくなった。走ろうとすれば転ぶし、日に日に歩くのも困難になっていった。そして ついに立てなくなった。
「チョウチョの呪いだな……」
私は病院のベッドでふと呟いた。
私の学生生活は車椅子と共に始まった。母は昼夜を問わず働き、私の面倒もよくみてくれた。
「マリー、痛くない?」
「大丈夫だよ。全然痛くない。マッサージ気持ちいい」
「ごめんなさい。うんち出ちゃった……ぐすん」
「いいのよ。ほら、お着替えしましょ!」
「おばあちゃん、お母さんは?」
「お母さんね、マリーの為に夜もお仕事するんだって。すごいねぇ!」
「お母さん すごーい。でも疲れないのかなぁ?」
幼いながらも、母の偉大さは感じ取れた。そんな母の過ちの産物が私なんだ。
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