第489話 エロリーナ

 3人はエーデルシュタイン家の上空にやってきた。予想通り、ゾンビが屋敷の周りをうろついてはいたが、高い塀のお陰で侵入は免れていた。ホッと胸をなでおろしたネル・フィードたちは中庭に着地した。


「おお! おかえり、3人とも」


 庭のガレージから、咥え煙草のペッケが工具片手に姿を現した。


「おじいちゃん、なにやってるの?」


「みんなが無事に帰ってくるか心配で落ち着かなくてな。こいつの整備をしとったんじゃ」


 そう言うペッケの視線の先には、昼間ネル・フィードが心奪われた機体『ウォーマシンX-1000』があった。


「ペッケさん、戻りました」


「ネル君どうだった? メルデス神父様は改心したか?」


「それが、ちょっとした邪魔が入りまして、決着をつけられませんでした」


「そうか。でもまあ、ひとまずみんなが無事でいてくれてよかったわい」


 ネル・フィードはX-1000に近づき、機体にそっと手を置いた。


「整備は欠かさないんですね」


「まあな。動かせんとはいえ、わが子みたいなもんでな。死ぬまでに少しでも動くところを見てみたかったがな」


「この星のエネルギーでは動かせないと仰っていましたもんね」


「まあ、こいつも動けば『地球最強の兵器』になってしまうからな。動く日は来ない方がいいのかも知れん」


「でもペッケさんはX-1000でいま起きている戦争を終結させたいと……」


「それが理想じゃがな。現在のルウシアの非道ぶりは目に余る。とはいえ、X-1000にはそれを上回る危険性もなくはないのじゃ」


「そ、そんなにX-1000とは強力なパワーを秘めているんですね」


 動きもしないガラクタの話で盛り上がる男ふたりに対し、アイリッサはいま起きている危機をペッケに告げる。


「おじいちゃん! それよりもいま、大変なことになってんの!」


「なんじゃ? 橋本環奈がヌード写真集でも出すのか?」


「んもう! そうじゃなくて、いま街中がゾンビで溢れかえってるの!」


「なんじゃとお!?」


 4人は家の中に入り、リビングのテレビをつけた。しばらくするとバドミールハイムのゾンビタウン化のニュースが速報で流れ始め、30分も経たないうちに、全チャンネルが報道特別番組に切り替わった。


 上空のヘリからの映像、視聴者からの投稿映像、そのすべてが、恐怖の衝撃波となって世界全土を駆け抜け、全人類を震え上がらせた。


「ネルさん」


「はい」


「セレンは明日の朝のニュースって言ってましたよね?」


「はい」


「私たちは明日、これ以上の悲惨なニュースを見ることになるんですか?」


 ネル・フィードはテレビ画面から目が離せずにいた。パウルが闇の能力者たちに告げた集結の日『6月6日』を待たずして本格的に動き出した。その序章がこのゾンビタウンなのだと。


「私は昨日、ホラーバッハが言っていたことを思い出していましたよ」


「なんて言っていたんですか?」


「舞台の芝居と同じ。多少間違えたとしても、物語は進み続けなければならない。彼はそう言っていました」


「物語、ディストピア創世……?」


「そういうことです。私たちに闇の能力者を倒され、ダークソウルを回収されたことは、パウルにとって完全なるアクシデント」


「間違いなくそうでしょうね」


「パウルは焦っている。計画を前倒しにしている。そんな気がするんです」


「そうですね」


「とはいえ、セリフの抜けた舞台が、役者のアドリブで本編を凌ぐ傑作になることもめずらしくはない」


「た、確かにありますね……」


「そうはさせません。くだらない舞台の幕はさっさと下させてもらう!」


 テレビ画面を決意のこもった瞳で見つめるネル・フィード。その横顔をとろけるような瞳で見つめるエルフリーナ。


『はあん……』

(マギラバかっけえ♡ 見た目がこのひょろい兄ちゃんでも萌える♡ め、めちゃエチしたくなってきた♡)


 今後、ミロッカ内蔵エルフリーナのことを『エロリーナ』と表記させて頂きます。ご了承下さい。


 

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