第61話 飛び火
そもそもクラスではいじめが発生していてひとりの女子生徒が標的となっていたのだ。色白でひょろっとしていておとなしい性格の女の子。
『
ひとりがその子に触った時点で、その手には『上田菌』が宿る。その手で触られないように皆逃げる。触られた人間はまたその『上田菌』を移す為に皆を追いかける。バカで単純な子供がやりそうな愚かな遊びだった。
「はい、西岡! 上田菌感染!」
そう言って、読書をしていた麗亜の肩に触れて笑みを浮かべる女子生徒。麗亜は完全に無視をした。嫌がるでも慌てるでもない。そんなくだらない遊びに付き合う気はさらさらなかったのだ。上田彩綾はそんな麗亜を泣きそうな顔で見ていた。
「おい、西岡。てめーなにシカトしてんだよ!」
ひとりの男子生徒が麗亜に詰め寄った。それが毒島晴翔だった。この『上田菌』いじめの発案者である。
「ちゃんとやれよ。俺の言うことが聞けねぇのか? ボコボコにすんぞ?」
このクラスは毒島晴翔に完全に支配され、クラス全体が麻痺していた。そんな中でも麗亜は自分を見失わなかった。母に教えられた『いじめは絶対にするな』それを守っていた。
「ぼ、僕はいじめはしない」
震えながら麗亜は言った。
麗亜は怖かった。体が大きいわけでもない、気が強いわけでも喧嘩が強いわけでもない。
「なに? 聞こえねー」
「いじめは……しないよ」
「へえー、そうなんだぁーじゃあ今度は西岡君をいじめようっかなぁ」
「僕を? なんでだよぉ。もうやめようよ。いじめはダメなんだよ!」
「うるせえッ! 俺の父ちゃんはヤクザだ。お前の人生めちゃくちゃにしてやっからな。覚えとけ!」
麗亜は青ざめた顔で読書をを続けたが、内容は全く入ってこなかった。
翌日からは『西岡菌』が始まった。残念ながらそのいじめに上田彩綾も参加していた。これが現実。
『屈辱』
西岡麗亜は10歳にして それを味わった。大好きな母を心配させまいと休むことなく登校していた麗亜だったが、いじめは日に日にエスカレート。ついに限界を迎えた。
「おえっ!」
朝食の最中、麗亜は嘔吐。
「麗亜っち! どうした!?」
「お母さん、僕、学校に行きたくない。もういやだよ……」
泣きながらそう言う麗亜を見て、真珠はただごとではないと感じた。
「なにがあったの? 話しなさい。大丈夫、大丈夫だから」
「いい……」
「麗亜!」
なにも言わずに部屋に籠ってしまった愛息子。なにが起きたのか気になる真珠だったが、今はとりあえずそっとしておこうと決めた。
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