第96話 エーデルシュタイン

 バキュウ──────ンッ!



 魔亞苦・痛の呪いが込もった1発の銃弾が、弥勒院みろくいんはぐれの左胸に命中!


『ガガガッ!?』


 しなかった。


 銃弾は彼女の30センチ程手前で止まり……


 カチャン!


 落ちた。



「教祖様っ! 大丈夫ですかっ?」

(一体なに? 銃弾が止まった?)


 藤花は驚きと共にホッと胸をなでおろした。全員が地面に転がる魔亞苦・痛の頭部にさげすみの視線を向けた。


 頭と胴体を切り離されても、しぶとく消えずに生きている。不潔なゴキブリ並の生命力。


『ガガガ!! 何故ダァッ! ただのクソ宗教の女教祖なのに! なぜ銃弾が届かないんだあ!?』


「教祖様っ、危ないです!」


 心配する藤花をよそに、女教祖は魔亞苦・痛に近づき、見下ろしながら話しかけた。


「あなたのような死に損ないに、この私を殺すことなんてできるわけがないでしょう。消えてしまいなさい」


 彼女のその言葉に反応するかのように、左手の聖書が光だし、めくれ始めた!


 パラパラパラパラパラパラッ!!


「エーデルシュタインッ!」



 ズゴゴゴゴゴゴォォオッ!



 ドォォォオ──────ンッ!!



 シュウウゥゥウッ!











『ガルルッ!! ハアハアッ!!』


 なんと、聖書の中から真っ暗な闇に包まれた巨大な犬のような生き物が飛び出してきたのだ。大きさは腐神ライノマンに匹敵する3メートル!


「ぎえっ!!」


「ひぃっ!!」


「激しっ……!!」


「やっだぁーん♡」


「化け物じゃあっ!」


『ガガガァァァァッ!? 女! きさま何者だあっ!?』


『グルルルルゥッ!!』


 ボタッ! ジュウウッ!


 闇の巨犬の開いた口から落ちたヨダレは、アスファルトを簡単に溶かす。


「エーデルシュタイン、よし。お食べなさい」


『ガガガッ! まさか俺様を!?』


 弥勒院はぐれご主人様から食事の許可が出た。闇の巨犬エーデルシュタインは餌である魔亞苦・痛の頭部に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。


『クンクンクンクンッ……!』


『やめろーっ! なんなんだ、この化け物は! ウガガガガァァッ!!」


  バクッ!


『ガガガァ────ッ!! やめろっ─────!!』


 エーデルシュタインは腐神の頭を咥え、そのまま口の奥へと運び、美味しそうに噛み砕いた。


 ガリッ! ゴリッ! 


 バリバリッ! ガリンッ!


 ブシュンッ!!


 魔亞苦・痛の頭部の破裂音が辺りに響いた。それと同時に切り離されていた胴体も蒸発するように消えた。


 もぐもぐっ


 ゴックンッ!


「腐神、食べちゃったよ……」


「は、激しく逃げたほうが……」


「教祖様のペット趣味、クセスゴね」


「これが召喚術というやつじゃな」


 驚く4人。そんな中、長年信者として生きてきた藤花だけは、皆とは違う感情を抱いていた。そこには僅かながら憤りも含まれていた。


「教祖様」


「はい」


「あなたは一体何者なのですか? 銃弾を無力化、さらにその闇の生命体。普通の人間にできることではありません!」


「そうですね」


「お答え下さい。永遠の方舟とは一体なんなのですか? 本当にただの一宗教なのですか?」


「ブラック・ナイチンゲールの皆さんにはすべてをお話しようと思っています。今、この世界になにが起きているのかも含めてです」


『くぅ〜ん♡』


「エーデルシュタイン、ありがとう。お帰りなさい」


 ピカァッ!


 ドッシュンッ!


 闇の巨犬、エーデルシュタインは聖書に吸い込まれる様に戻っていった。


『永遠の方舟教祖 弥勒院はぐれ』


 ゆるふわの銀髪ロングヘアー、目は大きく、まつ毛も長い。鼻筋は通り、唇はぷるぷるで艶がある。


 『女優レベル』


 絶世の美女、弥勒院はぐれは、果たしてブラック・ナイチンゲールの5人に、なにを語ってくれるのか?

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