第15章 宇宙の理

第95話 教祖様

「さあっ! みんな帰ろうっ!」



 藤花は永遠の方舟本部に背を向け、皆の元へ駆け寄った。すると、イバラ、陣平、美咲、真珠、皆の視線が自分ではなく、その後ろに向けられている事に藤花は気づく。


「お待ちください」


 皆が見つめる人物の声。その声に藤花は全身に電気が走った。そして 立ち止まる。そのすべてを包みこむ、天空の雲海のような優しく心に響く声。


「きょ、教祖様!?」


 藤花はそう言いながら振り返った。

 

 そこには赤のフードローブに身を包み、首から方舟水晶のネックレスをかけ、左手に分厚い聖書を持った女が立っていた。


 ファサ


 その女は目深に被っていたフードを脱いだ。



「なんちゅう べっぴんさんじゃあ!」


 陣平はその女の美しさに絶叫した。


「陣さんが興奮するのも分かるっ! アイドルになって欲しいくらいっ!」


「JCの力を持ってしても激しく負けそうっ!」


「ふ〜ん。あれが永遠の方舟の教祖様って事なのね? 女性とは意外だったわぁ」


 皆、一様に驚いていた。永遠の方舟の教祖が美しい女性だという事に。


「あなた方が噂のブラック・ナイチンゲールですね?」


「そ、そうですけど」


「みなさんっ! こちらに来ていただいてもよろしいですかっ?」


 その教祖と呼ばれる女は、藤花 以外の4人にも呼びかけた。


「な、なに? 藤花だけじゃなくて、私達にも用があるって事っ?」


「今 あの姉ちゃん、ブラック・ナイチンゲールと言った。我々の事をご存じの様じゃ」


「なんの用かしら?」



 ザッ



 4人は藤花と並ぶように集まった。すると、おもむろに女教祖は話し出した。


「あなた方の戦いぶりは3階の方から見させてもらっていました。この世界の為にありがとうございます」


「あんたが永遠の方舟の教祖様で間違いないのか? 美人さんじゃのう」


 陣平のその問いに、その女は右手を左胸に添えて答えた。


「はい。わたくし、永遠の方舟教祖『弥勒院みろくいんはぐれ』と申します」


「弥勒院はぐれ? ほう。では今日のパンティの色は何色じゃ?」


 バコンッ!


「あたっ!」


「このバチ当たりじじぃっ!」


 お決まりのイバラの拳が陣平の頭に炸裂した。藤花は、それを微笑ましく見つめる教祖に、本部内に早く戻る事をすすめる。


「教祖様。永遠の方舟の信者はとりあえずはゼロワールドの標的にはなりません。ですが、信者だった私の母、そして友人も殺されています。油断なさらないように。シェルターで暫くはお過ごし下さい」


「お気遣いありがとうございます」


 しかし、その場の和やかな空気は一瞬でかき消される。







『ガガガッ! 死ねぇえええっ!!』


  グアッ!!


 スチャッ!


 腐神、魔亞苦・痛は首を切断されたにも関わらず まだ死んではいなかったのだっ! 大きく開けた口からはショットガンの銃口が飛び出していたっ!




 バキュウ──────ンッ!!


 その銃弾は、弥勒院はぐれを的確に捉えていたっ!!

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