第94話 野苺めーぷる

 私、『野苺のいちごめーぷる』って名前でアイドルやってます!


 人気も出てきてファンのみんなの応援が私の力になってます!


「みんな、ありがとぉ〜♡」


 そんな私にこの前、声をかけてきてくれた女の子がいた。その子、今度アイドルプロジェクトを立ち上げるんだって。


天使あまつかイバラ』


 知ってる人もいるかも知れないね。『踊ってみた』の動画では結構有名な人だから。びっくりしちゃった。


「そのアイドルプロジェクトに、私に加入して欲しいってこと?」


「めーぷるちゃんのかわいさは半端ないし、コンセプトである『かわいいの可能性は無限大』を体現できる存在だって前からずっと思ってたの」


「満開のSAKURAだっけ?」


「うん。今もメンバーの募集はしてるんだけど、めーぷるちゃんにも入ってもらえたら、すごいグループになると思うんだよねー。ダメかな?」


 その打診を私はキッパリと断った。グループだと『中の1人』になっちゃうもん。私は1人で視線を独り占めしたいの。


 この『野苺めーぷる』だけを見に来てくれるファンに、ありったけの私を届けたい。メロメロにしたい!


 あと、グループだと仲のいい子、悪い子出てきちゃうだろうし、ハッキリ言って面倒臭い。その点ひとりは気楽だもんね。




 そんなある日。


 ライブを終えた私に、また天使イバラが満開のSAKURA加入をお願いしに来た。わざわざ履歴書まで持って。


「めーぷるちゃん、これ見てくれる? こんな子たちが応募してきてくれたんだ。かわいいでしょ? やっぱダメかなぁ? 一緒に……」


「ごめんなさい。私、1人で頑張りたいの。満開のSAKURAは応援してるから、がんばってね。それじゃあ」


「ご、ごめんね、何度も」



 本当にしつこい。私の足を引っ張らないで。このままいけば間違いなくテレビにだって出られるようになるんだから。歌って、踊って、バラエティにも出て、女優さんもやりたい♡


 天使イバラのしつこい勧誘を振り払い、私は自宅のマンションに帰宅した。さて、友達も来るし部屋かたすか。



 ガチャ



「めーぷるたぁああーん♡」



「えっ!?」



 鍵を開けてドアを開けたと同時だった。


 グアアアッ!


 後ろから聞こえた男の声と共に、私は玄関から一気に部屋まで押し込まれた。すごい力、誰? 誰なのっ!?



 ドサッ!



「キャッ!」



 私は床に倒された。


「か、か、可愛い。可愛すぎるぅ! 俺、めーぶるたんのことがっ! だ、大好きでっ! はぁっ、はあっ!」


 カ、カマキリィィィ───!?


 噂では聞いてた。地下アイドルを付け狙う身長190センチのカマキリって呼ばれてるあぶない人がいるってことはっ! ま、まさか私を狙って!?


「大好きだぁぁあああっ!!」


 ぶちゅうっ!!


 レロレロレロレロッ!!



「ヴンンンッッ!! ぶへっ!! や、やめてぇっー!!」


「やめねぇし。レロレロレロレロっ!! おいちぃ♡ これがアイドルの唾の味かあ! すげぇぇっ!!」


 カマキリの大きな体が、私から自由を奪う。全く身動きがとれない。なされるがまま。気持ち悪い!



 モミモミモミモミッ!



「ま、マシュマロだあああっ♡」


「だめぇええ──ッ!!」


 私のFカップの胸を乱暴に揉みまくるカマキリ。その手はスカートの中にも入ってくる! なんでこんなこと!


 ヌルヌルッ


「あ、濡れてくれてる♡ あれ? めーぷるたん、毛が生えてないよ。バッチリ脱毛してるんだあ♡ 別に剛毛でも全然好きだけどね♡ 記念に陰毛ほしかったけど、これじゃあ仕方ないねえ♡」


「もう、やめ……助け……だめ」


「んは♡ んほ♡ めーぷるたんのオマン湖の匂い……すごすぎて死んじゃうよおお……♡」


 カマキリは私の性器をめちゃくちゃにさわった指の臭いを嗅いで、気を失いそうな顔をしながら感じていた。



「め、めーぷる……?」



 この後、うちで一緒に夕食を食べる約束をしていたアイドル友達が開きっぱなしの玄関から入ってきた。カマキリに襲われる私を見て叫び声を上げた!


「きゃああああっ────!! 誰か助けてええええ──────っ!!」


 その声に両隣の部屋の住人が気づきすぐに110番通報。カマキリはそれにもお構いなしで私の体を貪り続けた。


「すごい♡ めーぷるたんのアソコ直接、見ちゃおうかなぁ♡ で、でも、その前に……」


 ビリビリッ! ビリッ!


「いやあ……」


「乳首見せてぇ──!!」


 友達は怖くてなにもできない。駆けつけてくれた隣人も若い女性。男性がいなかった。カマキリの傍らには包丁があり、誰も容易に近づけない。


「俺の天国を邪魔する奴はまっ先に殺すからな……!」


 カマキリは私の乳首を口に含みながらそう言った。


 チュパ、チュパ、チュパ


「あ、ああ……やめて、助けて」


「めーぷるたんの乳首おいちい♡ 母乳でないなあ? んぐんぐ♡ んー、なかなか出ないねぇ」


「苦し……助け……」


 私は恐怖で呼吸ができなくなった。薄らいでいく意識の中、女の子の大事な部分を狂ったように舐めまわされている記憶だけが残った。


「貴様、なにをやっているんだ!!」


 4人の警察官が一気に突入してきてカマキリを私から引き離した。


 『地獄』


 私は汚れた。その姿をアイドルの友達に見られた。その子は私のことをこれからアイドルとして絶対下に見るだろう。


『アイドルヒエラルキー』の底辺まで一気に下降した私には、もう『売れっ子になろう』なんておこがましい考えはなかった。ひっそりと隠れるように、目立たないように生きていこうと決めた。


 事件から1年が過ぎ、私はうつ病に摂食障害も患い、見るも無残なガリガリの体型と化していた。あの豊満でかわいかった私はもういない。野苺めーぷるは死んだ。


「うっ、うううっ、ああっ」


 あんなに大好きだった鏡を見ることもなくなった。薬を飲んで寝る。それだけの日々。テレビもネットも見ていなかった。華やかな物を見たくなかったから。


「もう私、死んでもいいよね? 生きてる意味ない。眩しい世界に居たくない……」


 私はテーブルの上にあった睡眠薬を大量に手の平に乗せた。


「生まれ変わって あのカマキリを殺してやる。切り刻んでやりたい。お父さん、お母さん、さようなら。せっかくかわいく産んでくれたのに、こんなガリガリのブスになってごめんなさいっ……」


 私は大量の睡眠薬をガブ飲みしようとした。その時だった。












『かわいい。そして美しい』











「ひえっ! だ、誰っ?」







『お前、死ぬのか? そんなにかわいいのに。もったいない』


「かわいくなんかないッ! こんなブス誰も相手にしてくれないよォッ!」


『誰も?』


「そうよ。もうあの眩しいステージには立てない。ファンのみんなにも会えない。私はアイドルとして終わったの。人としても……」


『お前はそのガリガリの体とオサラバして、復活のステージに立ちたいとは思わないのか?』


「復活のステージ? ね、ねぇ、さっきからあなたは一体? 神様なの? 姿はないのに声だけ……」


『私は神。その力をお前にもくれてやろうと言っているのだ』


「神様の力を私に?」


『だが復活のステージは光り輝くものではないがな。暗く、血にまみれた残酷のステージ。お前のかわいさが際立つぞ。ケケケッ!』


「復活したい、このままなんて嫌、ブスは嫌っー!!」


 バラバラバラバラッ!


 私は睡眠薬を壁に投げつけた。



『よし。では貴様に腐神との契約をしてもらおう』


 ドロドロッ……!


「臭ッ! なにそれっ!?」


『お前をアイドルに戻す『腐神』だ。ゼロワールドのアイドルになるがいい。用意されたステージは人類滅亡だッ!』


「アイドル、ステージ……♡」


 あがががっ! グゴッ!


 ゴックンッ!


 私は意識朦朧で腐神を飲み込んだ。


『今日からお前は腐神『血死武鬼ちしぶき』と契約を交わした『斬咲きりさき』だ。一緒に来い。お前のステージは既に用意してある。ケケケッ!』


 私は何ヶ月かぶりに鏡を見た。


『これが私? か、かわいい♡』


 女侍のコスプレしてて、長い刀まで持ってる。顔も元の顔じゃないけど、色白でかわいい。目も真っ赤なカラコン入れてるみたいで綺麗。


『では、行くぞ。斬咲!』


『はぁいっ! キリリリッ!』


 斬咲は以前イバラが話していた、カマキリに襲われ、アイドルを辞めた野苺めーぷるだった。

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