第202話 消えるX

 ヌギッ! ポイッ!


 ナナはぐしょぐしょになったパンティーを脱ぎ捨てた。


『あなたノーパンで戦うのね! エロい! 嫌いじゃないわよ♡』


『そういうお前もほぼ全裸ではないか。ハイメイザーは露出狂。ドスグロに伝えておこう』


『あなた、かなりお強いようだけど、お仲間はいないのかしら?』


 笑顔が消えた威無の額の第三の目が、ギョロギョロとあたりを見回す。


『安心していいぞ。アンティキティラの戦士は私ひとりだ』


『それはよかったわ。さすがの私もあなたみたいのが何人もいたらちょっとだけ困っちゃうもの』


『ちょっとだけね……』

(Xと違って力が読みにくいが、換算してもこいつの力は400万程度。私には遠く及ばない。なのにこの余裕、なにを隠してるのだ?)


『あなたは私には勝てない。触れることすらできずに死ぬのよ♡』


『ハイメイザーは頭も悪い、か。こんなデータばかりではドスグロが怒りそうなのだ』


『さあ! かかって来なさい! 教えてあげるわ! ハイメイザーの強さをッ!』


 すうっ!


 威無は両手を左右に広げる。戦闘の構えとは程遠い、無防備と言っても過言ではない。


『ではダブルXの真髄をぶち込んでやろうっ!』

(容易には近づけん。さっきの二の舞になるわけにはいかんからな。まずはコイツの能力を把握しなくては)


 ブアオオオオッ!!


 ブアオオオオッ!!


 ナナの右手に黄色のX!


 さらに左手には紅蓮のXッ!


皇焔銃撃エンペラーブレイズマグナム!』


 バギュンッ! バギュンッ!!


 バギュンッ!! バギュンッ!


 黄色のXがマグナムの銃弾の如く威無に向かって発射されたッ!


『デリートッ!』


 ポンッ! ポンッ! ポンッ!


 威無がそう言い、右手で払う動作をするとXの弾丸は煙のように消えてしまった! ナナは驚きを隠しつつ、攻撃の手を緩めない!


鳳凰の焔槍フェニックス・ランスッ!!』


 ズギュアアアッッ!!


 紅蓮のXが大きなやりに変化ッ!


『あら、素敵じゃない♡』


『くたばれえっー!!』


 ブアオオオオッ!!


 シュンッ! シュンッ! 


 シュンッ! シュンッ! 


『すごい、すごい♡』


 ナナ渾身の必殺の槍も、威無は笑顔でかわしてしまう。


 バシッ!


『なっ!?』


『デリートッ!』


 シュボォォウッ!


 プスンッ!


 威無が炎の槍を片手で掴むと、その槍も蒸発するように消えてしまった!


『その力っ!? まさかっ?』


『なぜ自分の方が強いのに攻撃が当たらないのか? そして、アンティキティラの聖なる炎がなぜすぐに消えちゃうのか? 全くもって不思議そうな顔してるわね♡』


 威無の勝ち誇った顔に若干のイラつきを覚えたナナだったが、すぐに冷静さを取り戻し記憶を手繰り寄せた。


『Xをも消し去る『無』という力。過去に調べたことはあったが、ハイメイザーが使うとはな。これはなかなかのデータなのだ!』


『無を知ってるのね。あなた、ただの戦闘狂ではなさそうね』


 威無の額で赤く光る不気味な大きな瞳を見て、ナナはおおむね理解した。


『そのキモい目か』


『キモい目ですって?』


『その額の目。それには私の攻撃を察知する能力があるのだろう。さらに言えば、それがお前の急所だ。違うか?』


 ナナの威無に対する分析は、膨大な戦闘経験に基づくものであり、ハッタリや当てずっぽうなどではない。


 威無もそれに気づく。


 とはいえ、自分の能力が知れた所で打開など不可能。威無にはまだ余裕があった。


『大正解♡ このサードアイに意識を集中すれば、どれだけ早い動きでもスローモーションに見えちゃうわけ。あなたがいくら強くても、私に攻撃をヒットさせることはできない。そのぐらいはバカでも理解できるわよね?』


 ナナは威無の能力を俯いたまま聞いていた。Xは掻き消され、打撃を当てることも難しい。そんな絶望的な状況に、最強戦士はなにを思うのか? ナナはゆっくりと顔を上げた。


『お前、頭が悪いな。データ通りで非常に助かるッ!」


 ナナはいつものように笑っていた。

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