第203話 絶対零度


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオオ……



 富士山のふもとから、不気味な地響きがし始めた。そんな中、樹海上空で対峙するニヤつくアンティキティラと爆発寸前のハイメイザー。



『キモいとか頭が悪いとか、ハイメイザーを侮辱するにも程があるわ。あなた、内臓ぶちまける準備できてる?』


『そんな準備をする必要はないな』


『できれば血とか臓物とか見たくないのよ。全くもってグロいじゃない?』


 そう言いながら、威無はゆっくりと髪をかき上げる。それに対しナナは、慎重にアンティキティラのバトルスタンスをとりつつ言い切った。


『お前の攻撃も私に当たりはしないということを理解できているのか? しかも、当たったところで痛くも痒くもないだろう』


『全くもってカテゴリー2如きが言うじゃない。私たちに楯突くとどうなるのか『死のハイメイザーツアー』に招待してあげるわ♡』


 シュボォォ!! ボボォンッ!!


 ナナは右手に黄色のXを集中しながら、漆黒のXを全身に纏うッ!


『くそつまらなそうなのだ』


『あっそ! 来なッ!』


『今から始まるのは、ハイメイザー駆逐して、美味しいもの食べまくりツアーなのだ!!』


 ズッドォオオオン!!


 ナナは威無に飛びかかった!


 ズバババッ! ビシッ! ババッ!


 サードアイが赤く輝き、ナナの蹴り、打撃、変則攻撃、その全てが見透かされたようにかわされる!


『あはははッ! スローリーッ! スローリーッ! あなた全くもってナメクジ以下よぉッ!』


『はあっ!!』


 ズギュンッ!!


 ナナは光速でさらに上空へ舞い上がり、先程攻撃しながら設置したナノレベルを爆破!


『させるわけないわよね! デリートッ!!』


 ポポポポポポポポポポポンッ!!


 ナノレベルもあっさりすべて消し去られてしまった。そこでナナは降下しながら右手に黒炎を集中ッ!


 ボボォンッ!!


変則蛇焔死鎖サイドワインダーッ!!』


『ギシャアッ!!』


 ナナの右手から黒炎の蛇が小刻みにうねりながら威無に襲いかかる!


『気持ちが悪いッ! デリ……』


 ウネッ!! ギュアアンッ!


 威無がXをかき消そうと手を伸ばした瞬間、黒炎の蛇はそれをかわすように方向転換。正面から襲いかかった変則蛇焔死鎖サイドワインダーは一瞬で威無の背後に回りこんだ!


『なんですってっ!?』


 ギュアアアアッ!!


 ズボァッ!!


 威無の右肩関節をサイドワインダーが貫通、血液が噴き出す!


 ブシャアッ!!


 その姿を見ながら、ナナは威無の弱点を語り始めた。


変則蛇焔死鎖サイドワインダーの素早く、不規則な動き。それを捉えるにはそのサードアイとやらに相当意識を集中しなくてはいけないのだろう。『無の力』を使う瞬間、その目の輝きが消えるのを私は見逃さなかった』


『へえ、よく見てるのね』


『Xを消すことに意識が偏り、ご自慢の眼力がおろそかになっていたようだな。とはいえ隙は1秒程度。だが、私相手に1秒の隙は死を意味する』


『生きてますけど?』


『相性の悪いミューバの人体でたいしたものだ。心臓を抉るつもりだったのだがな。よくかわしたのだ』


『ほんとそれ、ミューバの体って思ってた以上に不自由だわ。神経の伝達経路が未発達過ぎるのよ……』


 ブアオオオオッ!!


 パキパキパキパキッ……!


 シュウウッ!!


 威無はイバラの青の命の炎ブリザードで、傷口の血液を凍らせ止血。


『やはり貴様だったか。アンティキティラの力を持つ者と契約をしたのは。聖なる力を腐神が扱う姿、なかなかおぞましいものだな』


『悍ましい? この美しい私が?』


 威無の眉間に醜くシワがよる。


『美しい? 笑わせるな。腐ったゲロ生命体が!』


 バッ!!


『死ねッ!! 凍絶冥氷牙フロスト・カタストロフィーッ!!)


 ズッドォオオオンッ!!


 威無は間髪入れず、最大出力のブリザードフレイムを憎っくきナナに向かって放った!


『ぬるいッ!!』


 ガッ!


 ボボォンッ!!


 ナナは両手を合わせ手のひらを威無に向けた。全身を包んでいた漆黒の炎が一瞬で青に変わり、手のひらに集まった!


 ブァオウッ!!


氷嵐極砲撃ブリザード・キャノンッ!!』


 ズッドォオオオンッ!!


 











 ゴオオオオオオッ!!!!


 バシュウンッ!


『嘘!? うぎゃあ────ッ!!』


 ナナの氷嵐極砲撃ブリザード・キャノンは威無の放った凍絶冥氷河フロスト・カタストロフィーを軽々と飲み込み、威無の体を爆速で凍りつかせた。


 バキバキバキバキキキィッ!!


『このままコイツを砕いても構わんのだが、確かトウカがこの腐神に取り憑かれた仲間を救いたいとか言っていたはずだ。どうすれば……』


 その時っ!!


 ズキュンッ!!


 ドガッ!!


『ちょこまかとこざかしい。メイザー、まだ動けたのか』


 樹海に転落していた亜堕無が上空に舞い戻り、無防備なナナの背中に蹴りを浴びせたのだが、もちろん、ナナにダメージは与えられてはいない。


『ハイメイザーがワンパンでやられてたまるか。おとなしく俺の殺人精子を注入されていれば地獄を見ずに天国気分で死ねたものを……!』


『殺人精子だと? それはなかなか興味深い。研究素材として搾り取らせてもらうとしよう。ドスグロが喜ぶ』


『もうこれ以上、威無を傷つけさせはしない。行くぞッ!』


 ついに亜堕無の本気が牙を剥くッ!

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