第178話 大いなる成長

 真珠はアンティキティラダブルXの女隊長、ナナ・ティームースを自宅へ招いたのだった。


「さあっ! おいしいもんたくさん食べさせてあげるわよ!」


『やったっ! やったっ!』


「お母さん、おかえり。ねえ、そのお姉さん誰?」


 麗亜は母が突然連れてきた女に興味津々だった。目は美しく赤い輝き、髪は透き通るような水色。アニメの登場人物のようだったからだ。


「ん? この人は、んーと、ブラック・ナイチンゲールの仲間よ!」


『とりあえず、そういうことだ』


「そうなんだっ! こんにちは! 僕は西岡麗亜です!」


『私はアンティキティラ、ダブルX隊所属、隊長、ナナ・ティームースだ。レイア、お前の手に持っているものは、まさか?』



 麗亜の手には、ナナがとてつもなく食べたかった『あれ』が握られていた。


「えっ!? これ? チョコモナカジャンボだよ! 僕の大好物♡」


『わ、私も、食べてみたい……』


「いいよ! ナナさんにもあげる! こっち来てっ! 冷蔵庫にたくさんあるんだよ!」


『ほ、本当か? すまない! レイア恩にきる!』


 レイアはナナを連れて台所へ行ってしまった。


「1個にしてよー! 他にも食べるんだからーっ!」

(麗亜が初対面の人にあんなに心を開くなんて。初めてみたわ)


「はい! ナナさん!」


 麗亜は冷凍庫からチョコモナカジャンボを取り出すと、笑顔でナナに渡した。


『おお♡ ひんやりと、冷たい。これがミューバのアイスだな?』


「おいしいよ! 早く食べて!」


 そう言って麗亜は手に持ったチョコモナカジャンボを頬張った。それを見て、ナナも包装を剥ぎ取り、人生初のアイスを口にした。


『きゃいーん♡ な、なんだ、このとろける甘さ? そしてこのパリパリのチョコ? の食感っ! こ、こんなものを作れるミューバがカテゴリー8。本当にそれでいいのかっ?』


「おいしいでしょ? チョコモナカジャンボ! 他にもガリガリ君とか、スイカバーとかもシャリシャリで美味しいよ!」


『やはりそうか! アイスには様々な種類があるというのは本当だったのだな。すべて食べてみたいな』


「はいはいっ! そこまでよっ! 麗亜もっ、ご飯前にアイスはダメだって言ったのに」


「ごめんなさい。お母さんなかなか帰って来ないから、待ちきれなくて」


「ごめんごめん! まっ、アイス食べたんだから、ちょっと待っててよね! パパッと作るからっ! 手巻き寿司」


「手巻き寿司っ!? やったぁ!」


『ふむ。待とう』




 真珠は早速、料理に取り掛かった。





「うおりゃああああっ!!」




 厚焼き卵、唐揚げを手際よく、完璧に作り上げ、程よい大きさに切り分ける。さらに、きゅうりも素早く切り刻む。


 そして、ツナマヨをガーッと作って冷凍のイカの刺身も取り出して解凍。


「うおおおおっ!!」


 買い物前にセットしておいた炊き立てご飯をボールに全部移し、酢、砂糖、塩を混ぜたものをそこへ流しこむ。しゃもじで切るように混ぜて混ぜて、うちわで仰いで仰いで一気に冷まして艶を出す。酢を米に閉じ込める!



 パタパタパタパタパタパタパタッ!



 そして、上下を大きく返して再び仰ぐっ!!


「よしっ!!」


 冷蔵庫から、さっき買ってきた刺身の盛り合わせ、イクラの醤油漬けを取り出してテーブルへっ!



 ドーンッ!



「で、できたわよ! アンティキティラの力のおかげで腕も疲れないし、超楽ちんにできちゃった!」


 テーブルの上には沢山の具が並び、『宝石箱や〜』状態。麗亜もナナもお腹ペコペコ。早速いただくことにした。



「いただきまーす!」


『うむ。いただくのだっ!』


 麗亜は手慣れた様子で好きな具を選び、くるくる巻いて頬張った。


「お母さんっ! めちゃくちゃうまいよっ! もぐもぐっ」


「こら、食べながら喋るんじゃないの! ほらっ! こぼれたっ!」



 そんな中、ナナはどうすればいいのか分からずモヤモヤしていた。すると、みかねた麗亜が声を掛けた。


「ナナさん、手巻き寿司食べたことないの?」


『初めてなのだ。要領がよく分からないのだ。早く食べたい……』


「待っててっ! 僕がナナさんの作ってあげるから。どの具にする?」


『そうだな。その刺身と、唐揚げというやつを……』


「あはははっ! お刺身と唐揚げは一緒じゃない方がいいよ!」


『そ、そうなのか? こうなれば、レイアにすべてを任せるぞ』


「待っててねー、じゃあ、サーモンとぉ……いくらいっちゃえっ!」


『おお! レイア、頼もしいな』


 麗亜はくるくるっと巻いて、ナナに手巻き寿司を渡した。


「はい! ナーナさんっ、おいしいよ! えへへっ♡」


『レイア、感謝する』




 その2人のやりとりを見ていた真珠は思った。



(れ、麗亜っ! あんた確実にナナに恋してるやないかーいっ!! わ、私一筋だった麗亜がっ! こ、これが息子の初恋っ! な、なんか苦しいわ……)



 真珠は苦しみながらも、自分が死ぬ前に、息子の『大いなる成長』を見届けることができた喜びも少ーしだけあった。


『うまいのだッ! レイアっ! もっと頼むッ!』


「ナナさん♡ 次はツナマヨだよ!」


「あははは。おいしいわねぇ、ほんと。よかったわあ……」

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