第177話 優秀な人材

 ボボォオオンッ!!


 高圧的なアンティキティラ人の右手から噴き出す命の炎エックスが、真珠を嘲笑うかの如く爆音をとどろかせる。


「それが本家のみことの炎っ? 勢いが違うっ!」


『ミコトノホノオ? これはそんな長ったらしい呼び名ではない。『Xエックス』に改めろ。ミューバ人』


「X、ねぇ……」


『どうだ、私と戦ってみるか? 5人いたはずの戦士が現在2人のはずだ。腐神にやられたのだろう?』


「ま、まあね……」


『ということは、お前はやられた3人より優秀なわけだ。私が直接実力を見定めてやろう』


 シュウウウウウッ!


 ボボォンッ!


 アンティキティラの女は右手に揺れるX越しに、真珠に怪しい視線を向ける。


「ごめんだわ。それにやられてしまった3人より私が優秀だなんて思ったこともないしね。あなたは勝手に観光でもすればいい。自由にね」


『低脳なミューバ人が生意気な口を聞くな。私がお前を殺すのも自由なんだぞ』


「可愛い顔して言ってることが悪役のおっさんじゃない。私はさっさと帰って麗亜にご飯を食べさせたいの。ハイメイザーが日本に来るまでは一緒にいてあげたい。だから、アンティキティラのあなたでも、その邪魔をするというのなら……!」


 シュボォォウウウゥッ!!


 真珠は右手に命の炎を燃やしながら、その女を腐神と同様に睨みつけた。


『レイアにご飯を作る? そうだ、お前は牛丼を作れるのか? さっさと答えろっ!!』


「牛丼? そのぐらいは作れるけど、冷凍のチンの方が早いわね」


『レイトウノチン? じゃあ! 寿司も作れるのかッ? 答えろッ!』


「お寿司? 手巻きなら……」


『なんだとぉ!? 寿司も作れるって、か、かなりの優秀な人材じゃないか!』


「そんなの誰でも作れるわよ。カレーは? ラーメンは? 食べたことあるの?」

(なにこの子? お腹が空いてるの?)


『残念ながらまだないのだ。どこも店が閉まっていて。悲しい……』


「うちに来れば、いろいろ作って食べさせてあげてもいいわよ!」

(つらそうな顔しちゃって。私の母性本能がうずいちゃうじゃない!)


『本当かっ!?』


「ただしっ! ハイメイザーを倒すのにあなたの力を貸してほしい。たくさんの飲食店が安心して営業できるように!」


 真珠のその言葉に、さっきまでの威勢のよさが消え去ったアンティキティラの女は小声で語り出した。


『ミューバには本来、いろんな美味いものが溢れているはず。それが、この3日間ろくに出会えていない。これではなにをしにミューバに来たのか分からない……』


 シュウウウウウッ……


 ガクッ!


 女は右手のXを消し、膝をつき項垂れた。


「あらら、大丈夫?」


『我々アンティキティラは、精神生命体になる為の準備段階として、食事は錠剤や液体のみ。あんなものは食事ではない。つまらんのだッ!』


「精神生命体。カテゴリー1になるのも大変なのねぇ……」

(なるほど。それで食べ物に執着してるわけね)


『私はミューバの食文化にかなり興味があるのだが、他の連中はなんの疑問もなく、錠剤や液体を摂取し、肉体のない精神生命体になるのを夢見ている。あほなのだ……』


「うんうん。そうなのね」

(この子、かなりしんどそうね……)


『アンティキティラはミューバ以外にも、様々な星の管理を任されている。時には武力介入が必要なこともある』


「武力介入?」


『アンティキティラはカテゴリー2の中でも戦闘に長けている。その象徴がお前らがミコトノホノオと呼ぶXだ』


「Xね」


『私はダブルX隊の隊長を長年務めてきた。訓練、統率、実戦……私を縛り上げるものは数知れない』


「ダブルX? そんなのもあるの? それは大変ねぇ……」


『私は疲れた。ずっと見下していたミューバの存在。いつしか私はそのミューバに憧れを抱くまでに精神が崩壊してしまったのだ……』


「あなた、名前は?」


『私はナナ・ティームース。由緒あるティームースの血を受け継ぐ者だ。お前らミューバの薄汚うすよごれた血とは訳が違うのだっ!!』


「はいはい」

(完全に精神分裂してるわ。ずっと見下していたものが憧れに変わる。無理もないか……)


『お前の名は? 寿司も作れるという優秀な人材だ。教えろ』


「私は真珠。西岡真珠よ♡」


『シンジュか。覚えやすい名だな』


「そ、そう?」


『『シンジュ』はアンティキティラでは男性器の意味を持つ』


「な、なぬうぅ──っ!?」


『よいではないか。私は気に入ったぞ! くっ、あっはははっ!』


「絶対、バカにしてんじゃん……」


『シンジュ、寿司ッ! 頼めるか?』


「いいわよ。その代わり約束は守ってよね。いい?」


『仕方がない。寿司の為だ。そして、その他の美味い物の為だッ! ミューバの優秀な人材の為に、私はハイメイザーをぶっ殺すッ!』


「よしッ! じゃあ行くよ、ナナ」


 真珠がそう言って歩き出そうとした瞬間っ!


『飛んで行くのだっ!』


 ガシッ!


「わっ、ちょっ……!」


 ナナは真珠を抱きしめると飛翔で一気に舞い上がった。


『どっちだ? シンジュの家は』


「あ、あっちの! あれよ!」


『急ぐぞぉ〜!! 私はまだまだ腹が減っているのだッ!』



 バギュン!!



「うわあっ!! 速あっ!! うぎゃあ〜っ!!」


 こうして真珠はアンティキティラの力が引き合わせたかのようにナナと出会い、打ち解けていくのだった。













 ギュルルーンッ!!


 スタッ!!


『ほい、到着ッ! シンジュ! 早く寿司寿司ー!』


「お、おええっ! よ、酔ったわ……」


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