第176話 フリーダム




「ボクサツくんっ! あれ、ファッキン田所だっ!」


「可憐、見ちゃダメだ。行くよ」





 ★   ★   ★


 

 牛丼を平らげ、満足げなブラック・セラフィムを纏った女は、店を破壊し、会計もせず、外へ出た。


『ふう。次は寿司というやつを食べてみたいのだが……』


『ナナ・ティームース』は惑星アンティキティラを出発して間もなく地球に到着していたのだった。


 愛する小型宇宙船『ドロシー』と共に、世界の美味に舌鼓を打つ旅をしていた。そして現在、日本にいたのだった。


『しかし、食事ができる店が極端に少ない。やはり、腐神の存在に恐れをなしてしまっているのか。非力なミューバ人は……』


 バギュンッ!


 ナナ・ティームースは陣平や藤花の様に、飛翔の能力で飛び立った。


『寿司、寿司……やはりどこもシャッターが。確か回転しているパターンの物もあるらしいのだがな。味は多少、落ちるらしいが回転バージョンでも構わんのだ。どっかやってないのか?』



 バシュンッ!!



 更に上空からお目当ての寿司屋を探すこと20分。



『おっ、あったぞ! あれは回転バージョンの店構え『スシロー』だ!』























 スタッ!!




 ナナ・ティームースは店の前に降り立った。すると、偶然その場にいた人間に声を掛けられた。


「あんた、それ飛翔!? 新たなブラック・ナイチンゲールなわけ?」


『またブラックナイチンか? なんなのだそれは。答えろ!』


 偶然、目の前に降りてきたブラック・セラフィムに身を包んだ女の登場に、驚いたのは西岡真珠!


「今どきブラック・ナイチンゲールを知らない。そのくせにその格好。はぐれっちの言ってた『ひとつの可能性』の方が高いわねぇ……」


『ひとつの可能性だと?』


「そそ。あんたは新たなブラック・ナイチンゲールじゃない。アンティキティラ人そのもの。違う?」


『ほう。アンティキティラを認知しているミューバ人に出くわすとはな。きさまこそ何者だ?』


 その女は真珠を鋭く睨みつける。


「私はアンティキティラの力を授かった人間よ。それがブラック・ナイチンゲール!」


『なるほど。我がアンティキティラの偉大なる力『X』を授かったと言うのなら証拠を見せろ。ミューバ人!』


 あたりに人はいない。そもそも、もう見られても気にはならない。真珠はその場で命の炎を全開放! ブラック・セラフィムを装着した!


 シュウウウウウッ! ボボォンッ!


『おお! 本当にミューバ人がXを使っているぞ! これは面白いっ!』


「信じてくれたわね? で、あなたはなにをしにこの星に来たの? 腐神ハイメイザーのことはもちろんご存じよね?」


『知っている。異常事態だ』


「アンティキティラのあなたがここへ来たということは、なにかよほどの意味があるのよね?」


『意味か。私がミューバに来たのはな……』


「来たのは……?」














『遊びに来た。それしかないだろ!』










「……んんっ?」


『だから、私はミューバに遊びに来たのだ! おいしいものたーくさん食べて、なににも縛られずに自由に生きる! そう! 私はめっちゃフリーダムなのだー!!』



「フ、フリーダム?」


『だからハイメイザーも、フリーダムでよくないか?』


「あなたはアンティキティラで、カテゴリーを上げるのが仕事なんじゃないの?」


『そんなのどーでもいいのだッ!!』


「んえええっ!?」


『すべての生命には自由に生きる権利がある。すべてと言っても、きさまらみたいなカテゴリーがバカみたいに低い生命体に本当の自由はないがな!』


「カテゴリー2アンティキティラ。もうちょっとマシな人種なのかと思ったら、かなりの差別主義者ね」


『なんとでも言うがいい。そうだ、お前は牛丼を作れるのか?』


 ズオッ!


   ボボォオオンッ!!


 右手から命の炎エックスを放出しながら、ナナ・ティームースは不敵に笑った。

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