第175話 YouTuber が見た女
亜堕無と威無が行動を開始して、3日が経過。『フライングヒューマノイドによる世界遺産の破壊行為』その悪報はゼロワールドの人類滅亡宣言とは比べものにならないスピードで、地球全土に報じられた。
『ピラミッドの破壊』
この衝撃のインパクトは、世界で起きるどんなテロ行為にも勝る。あの巨大建造物を一瞬で破壊するという絶対的パワー。
『なす術なし』
それが、どんなバカにでも分かる単純明快な計算式の答えだった。世界が恐怖に、見えぬ明日に震えたのだった。
それでも日本国民を中心に、ブラック・ナイチンゲールに期待する声は根強くあった。
なんと、刀雷寺でのあの戦いを撮影して投稿した人間がいたのだ。『命知らず系YouTuber』として有名な『ファッキン
そこに映る腐神と戦う戦士の姿。
その姿に、勇気と感動を受け取った人間は数知れず。再生回数は5,000万回を超え、コメント欄も応援や藁にも縋るといった内容が多数を占めた。
その映像に一番感動していたのは もちろん、撮影者のファッキン田所だった。数少ない営業中の牛丼屋でニタニタしながら
「カッカッカッ! 最高の絵が撮れたもんねぇ♡ この勢いで1億回再生っ! イッチャッテ欲しいのねぇんっ!」
ファッキン田所はギガ盛りの牛丼をバクバク頬張った。そして、紅生姜を乗せようと手を伸ばした。その時だった。
「カッ? あ、あれは?」
ファッキン田所の目に飛び込んできた1人の人物。それはムシャムシャと勢いよく自分と同じギガ盛りの牛丼を食べる女の姿だった。
ただの大食い女ではない。その女の格好にファッキン田所は目が釘付けになったのだ。
(カッ? あの格好、ブラック・ナイチンゲールじゃね?)
ファッキン田所は目を凝らして女の服をよーく見た。刀雷寺で、遠目ではあるものの直接見たブラック・ナイチンゲールのコスチューム。本物か偽物かは、彼の命知らず系YouTuberとしての嗅覚が嗅ぎ分ける。その結果……
(ありゃあ、作りもんじゃないのねん。ガチのブラック・ナイチンゲールだすっ! 間違いなっしんぐ! カッカッ! 直接インタビュー……イッチャほーかなー♡)
ぴこっ
ファッキン田所はスマホをカメラに切り替え、録画ボタンを押した。
(超貴重映像になるぞっ! 『牛丼屋でブラック・ナイチンゲールと遭遇っ!今後の戦いへの意気込みをファッキンしてみたッ!』みたいな♡ カッカッカッ! 直撃ぃ〜!!)
ファッキン田所はひとまず牛丼を食べるのをやめ、その女の元へ。カメラは既に彼女を映していた。
「どもどもぉ〜! お食事中すみませ〜ん! ファッキン田所と申しますう〜♡ あなたはブラック・ナイチンゲールのメンバー、ですよね?」
『ブラック? ナイチン? なんだそれは? もぐもぐっ』
女は食べるのを止めようとはしない。牛丼を頬張りながら答えた。
「またまたぁ〜、その格好は正にっ! ブラック・ナイチンゲールのコスチュームっ! 私の目は誤魔化せませんよぉ〜!」
『消えろ。私の楽しみの邪魔をするな。さもないと殺すぞ』
「カッ? な、何言ってんだよ。お前らは人類の味方だろうがっ! 調子乗んなよッ!」
『お前は牛丼を作れるのか?』
「はあっ!? な、なに言って、馬鹿なの? 君。 カッカッカッ! 俺は牛丼じゃなくてバズる映像を……」
『臭いな』
「カッ?」
『低脳なミューバ人の悪臭が、お前からはプンプンするのだ』
「カッ? て、てめぇ! なにディスってんだよッ! こ、この動画も上げてやるっ! 覚悟しとけよっ!」
『覚悟? その意味をお前は知っているのか? その醜い体型からして戦闘の経験も皆無だな。そんな奴が覚悟などと気安く口にするんじゃない』
「カッ?」
(なんだこいつ? イッちゃってんじゃん! 草ッ!)
バシッ!
「カッ?」
その女は箸でファッキン田所の手首を掴んだ。そして……
『臭いから外に出ろッ!』
ブオンッ!
ガッシャアア────ンッ!!
その場にいた少数の客は、何が起きたのか分からなかった。男が勝手に大窓にダイブしたようにしか見えなかったのである。
ファッキン田所だけが分かっていた。自分は箸で摘み出されたのだと。頭から血が溢れ、薄れゆく意識の中で思い出していた。
(そういえばこんな奴……ブラック・ナイチンゲールに……いなかったな……でも……この力は……何やねん?)
ガクッ……
「お客さんっ! 一体何がッ!」
『牛丼。うまかったぞ』
そう言って、立ち去ろうとする女に店員は慌てて声を掛ける。
「お客さんッ! お会計まだですよ!」
『お会計だと? 低種族がカテゴリー
「……? 何を言ってるんですか?」
その女は外に倒れるファッキン田所を指差して言った。
『その醜いミューバ人からもらえ。私は忙しいのだ』
「は、はあ。って! ちょっと!」
窓ガラスの事もあり、その黒いコスチュームの女を引き止めたかったが、異様な雰囲気に身の危険を感じた店員は それ以上、何も言わなかった。
アンティキティラのはぐれ者、ナナ・ティームースも暴れ始めていた。
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