第174話 私だって狂ってる

 弥勒院はぐれの言う通り、ハイメイザーの亜堕無と威無は、シヴァを地球から消去。『好き放題』やり始めていた。


 だが刀雷寺の5人は、それにまだ気付いてはいなかった。


 そんな途方に暮れる中、西岡真珠が牙皇子だった杏子に話しかけた。


「さっきのあなたの話、とても興味深く聞かせてもらっていたわ」


『あ、ピンクのおば……じゃなくて、西岡さんでしたね』


「傷も治してくれてありがとね」


『いえ、当然です。私はあなたの大切な人を……』


「大切な人を失ったのは私だけじゃないから。藤花はお母さん、アンティーは美咲。他にも大勢いるでしょ? 私だけが辛いわけじゃないから」


『藤花のお母さんっ!? そ、そうか、永遠の方舟本部で魔亞苦・痛がやったのって、そ、そうだったんだ。藤花、ご、ごめ……ごめ……』


「私のことはいいよ。私にも責任があるんだから」


『こ、こんなはずじゃあ!』


 杏子は嫉妬に狂い、暴走した自分を改めて悔いていた。だが、その最中、悪いことをしている自覚など微塵もなかった。杏子の悪い顔色がさらに悪くなるのを見て、すかさず真珠が話を続けた。


「杏子、私はね、子供の頃から自分の気持ちを抑えて生きてきたの」


『そ、そうなんですか……?』


「あなたもきっとそうね。イバラがきっかけで爆発したようだけど」


『そう……です』


「単純に考えれば、あなたが藤花に『天使イバラの話はやめてほしい』って気持ちを伝えれば、それだけで済んだ話だったのよ」


『そ、それが、できなくて……』


「『その気持ち』が私には非常によく分かるのよ」


『本当ですか……?』


「気持ちとは正反対のことを言ったりやったりしてしまう。嫌われたくないから。怖いから……」


『藤花に嫌われるのが、私はこの世でいちばん怖い……』


「杏子ちゃん、そこまで?」


「あなたは力を手にして自分の理想を叶える為に行動した。そして、人を殺めることすらいとわない、残酷神と化した」


『そんな私の狂った気持ちが西岡さんには分かるんですか?』


「ええ。私もあなたに負けず劣らず、このアンティキティラの力で大勢、人を殺してるから。ブラック・ナイチンゲールでいちばん狂ってるのは私よ。杏子」


『そ、そうなんですか……?』


「だから、浩史ひろふみさんを殺されたって知った時は『報い』だと思った」


『報い……』


「反社の人間を惨たらしく毎日の様に殺した。でも、それは私の正義だった。誰にも私を止める権利はないと思った……」


『私もそんな感覚だったかも……』


「私もあなたも狂ってるわけ。でも感情のコントロールが下手な人間っているのよ。それは生まれながらなのか、もしくは環境などの影響で後天的にそうなったのか……」


『私は、どっちなんだろ……』


「『力』……それには『魔力』が秘められていると思うの。知力、権力、腕力、武力。使う者のさじ加減ひとつで世界だってひっくり返せる。正に牙皇子、あなたがしようとしたことね」


『……はい』


「ゼロワールドが現れなかったら、私は今も反社狩りを続けていたわ。愛する息子の為に。彼の住む世界から反社を消し去りたかった。彼が生きやすい世界を作りたかった。どう? あなたに似てると思わない?」


『似てるかも、知れないです……』


「反社にも家族はいる。大切な人もいる。そんなことは分かってる。でも、止まらなかった。人間は自分の愛する人の為なら、残酷なまでに貫いちゃうのよ。愛ってやつを」


『愛……』


「私は杏子がしようとしたことを完全に否定はしない。もちろん肯定もしないわ。狂った人間の私から、あなたへの最大の譲歩よ」


『はい……』


「その代わり、私の息子の住むこの世界を、絶対にハイメイザーから守って。残酷神の力、期待してるわ」


『そ、そのつもりです……!』


 




 キンコンッ!


 キンコンッ!


 キンコンッ!




「な、なにっ!? 携帯のっ!?」


『俺の携帯の緊急速報だッ! ゲロッ!』


 フロッグマンはスマホをポケットから取り出し、なにが起きたのかを確認した。













『ゲロ。あいつらやりやがった。ピラミッドをぶっ壊した。ゲロッ!』


「ピラミッドをぉっ!? なんてことをっ! 教祖様っ! こ、これは、シヴァが既にっ!?」


「ハイメイザー、やはり行動が早いですね。もう彼らが恐れるものはなにもなくなったのでしょう。終わりかも、知れません」


 はぐれは落胆の色を隠せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る