第144話 どうでもいいアイドル


 時が経つのは早いもので、加江昴瑠に腐神を喰わせて2度、年を越した。


 高校1年の冬休み。


 今日も私と藤花は愛を深め合っていた。藤花の気持ちいい所も、もう全部知ってる。私の、私だけの藤花♡ 藤花も私だけを愛してくれている。そう、思っていた。


 いつものように互いにイッた後、まったりしていた時だった。






「杏子ちゃん、この人知ってる?」


 裸の藤花の持つスマホを覗くと、そこにはある1人の女性が映っていた。


「誰それ?」


「あ、あのね、天使あまつかイバラっていう人でね。アイドルやってるんだって」


「ア、アイドル? へえ……」

(誰やねんっ! うっざっ! 消えろ)


「地下アイドルでね、まだあんまり売れてないんだけど……」


「なあに? 藤花、その人のことお気に入りなの?」

(地下アイドル? ずっと埋もれてろ)


「えっ? えっと、うん。なんか応援したいなって。えへへ♡」


「応援ねっ、うん! いいんじゃない!」

(天使イバラ? ちっ! ふざけた名前しやがって……)


「でねでね! 満開のSAKURAってグループのリーダーなんだけど、そのイバラちゃんの担当カラーがね、『禁断の果実色』なんだってっ!」


「禁断の果実? それって、あのアダムとイヴの? 確かリンゴだったよね?」


「そう。担当カラーが赤なの!」


「あー……」

(永遠の方舟の『赤を生活に取り入れろ』とかなんとか言ってたな。それの影響か。ふーん)


「だから杏子ちゃんも私と一緒に満開のSAKURAの応援、どうかなーって」


「え? あっ、あぁ、そうね! へぇ、天使イバラちゃんかー。おっけー! 私も応援するするっ!」

(したくねぇ〜、全くしたくねぇ〜)


「やったぁ! 絶対に杏子ちゃんも気に入ってくれると思ったんだぁ!」


「さすが藤花っ! 分かってるぅ!」

(な、なんなのこの展開はっ! 藤花、やめようよーどうでもいいしアイドルなんて……)



 それからというもの、私たちの話題は満開のSAKURA、天使イバラが主になっていった。私のフラストレーションは大いに溜まっていくのだった。




 そんなある日の下校中。





「杏子ちゃん!」


「なにかな? 藤花♡」

(まんさくは勘弁よーっ!)


「今度、満開のSAKURAのライブに行ってみない?」


「ラ、ライブに?」

(行きたくねー……)


「なんかね! 神チケットってのがあってー、それを買うとなんと! 推しとチェキを撮れたり、会話もできて、しかも! ハグもできるんだって!」


「は? ハグぅ?」

(おいおい、ふっざけんなよ!)


「神チケットは1万円! 杏子ちゃんも買うよね?」


「あ、あははっ! もちろんっ!」

(地下アイドルのくせに高ぇなぁ!)


「分かった! 絶対ゲットするからね!」


「ありがとうッ! 楽しみだね!」

(くそアイドルに1万かー。藤花が喜ぶ顔も見たいけどー。私たち以外に買う人いんの? それ)



 抽選で10人にしか当たらない神チケットを2枚、藤花は見事にゲットした。だから私たち以外 誰も買ってなくない?




 私たちは高校2年になった。

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