第335話 peach Cream

「では、こちらへどーぞー♡」


 そのかわいらしいメイドさんと共に、ふたりはメイドカフェ『peachピーチ Creamクリーム』の店内へ入って行った。



「お帰りなさいませー♡」


 案内はされたものの、ネル・フィードは完全に戸惑っていた。


「こ、これはどうすればっ?」


 すると、それを見かねたメイドさんが優しい笑顔で言った。


「ご主人様♡ 『ただいまー』で結構ですよー!」


「そうなのですか。た、た、た、ただいまっ!」


「ぷひひっ! ウケる!」


「はーい。ではお屋敷の中へ案内させていただきますー♡」


「よ、よろしくお願いしまっす」


 チリチリチリーン!


「ご主人様とお嬢様のご帰宅でーす!」




「お帰りなさいませー! ご主人様♡ お嬢様♡」




 複数のメイドが一斉にふたりを迎え入れた。


「ただいま。は、恥ずかしいな」


「ご主人様♡ 恥ずかしくないですよ。こちらでーす♡」


 そう言いながら、そのメイドはふたりを席に案内した。


「はーい♡ 改めまして、お帰りなさいませ。ご主人様♡ お嬢様♡ 本日、ご案内を担当させて頂きます、プレミアムメイドのchiepinちえぴんと申しまーす。よろしくお願いしまーす!」


「は、はい。よろしくお願いします」


「お願いしまーす」

(ネルさんの反応が楽しみすぎる。ぷ、ぷひひ!)


「ご主人様、本日はとーってもお久しぶりのご帰宅ということでー……」


「久しぶり? わ、私はここへは初めてきたのですが」


「そんなことないですー。私たちはご主人様がこーんなにちっちゃい頃からお仕えしていたので。忘れちゃいましたかー?」


「な、なんだと? 私が小さい頃からだと?」


「ぷっ! くく……」

(真面目に答えとる! 設定やっちゅうねん! ウケるー!)


「い、いや、ちょっ、ちょっと覚えてるかも。うん。あはは……」


「ぷくく!」

(おっ? 設定に気づいた?)


「あー♡ よかったー。思い出してくれたんですねー!」


「そ、そうだな。うん、小さい頃、来た来た。来たっていうかここに住んでた。思い出しました。忘れてた。ごめんなさい!」


「ぷほっ!」

(の、のりだした! い、いいっ!)


「そんなご主人様にですね、こちらのお手紙が届いておりましたので、読ませていただきますぅ」


「お、お手紙?」


「はい。じゃーん♡ Dearご主人様。あなたは常日頃からご主人様として素敵に日々を過ごされ、他のご主人様の模範であると認定されました。その功績を讃え、ご主人様認定証を進呈いたします。ご主人様協会より♡」


「お、おおっ! 功績か!」


「よかったですね。ネルさん」

(ちょっと喜んどる! ぷひひ!)


「じゃーん♡ こちらがご主人様認定証でーす♡」


「や、やったぜー!」


「ぷおっ!」

(頑張って盛り上げようとしとる! ぷひっ!)


「ご主人様♡ こちら、裏にご主人様がお屋敷で呼ばれたいお名前をお書きすることができるみたいなのですが〜」


「えー!?」


「ご主人様が、お屋敷で呼ばれたい萌え萌えなニックネームはございますか?」


 悩むネル・フィードの横で、アイリッサはサクッと『アイリ』に決めてカードを受け取った。それを見て、ネル・フィードも慌ててニックネームを決めた。


「で、では、私の萌え萌えなニックネームは……『ネルフィー』で!」


「ぷがっ……!」

(ネルフィーキター! こ、これから私もネルフィーって呼んでやろう♡)


「ネルフィー♡ 可愛いですー♡」


「あは、あははは。ネルフィーかわいいですかね?」


「もちろんです♡ 今日はご主人様1回目のご帰宅なので、こちらの『ブロンズカード』となりますー♡ はい、ネルフィーご主人様♡」


 chiepinちえぴんは裏に『ネルフィー』と書いたブロンズカードをネル・フィードに手渡した。


「ど、どうもっ」


 ネル・フィードはカードを受け取りながら疑問を抱いた。早速聞いてみる。


「あ、あのぅ、chiepinちえぴんさん」


「なんですか? ご主人様♡」


「今、私が貰ったのはブロンズカード。ひょっとしてこれにはランクのようなものがある、ということなのでしょうか?」


 それを聞いたchiepinちえぴんの顔が、笑顔から少しだけ真面目な表情になった。


「そうなんです。お屋敷へのご帰宅回数によって、こちらのカードのレベルが変わっていきます」


「レ、レベル? どこまであるんですか?」


「はい。ブロンズカードからスーパーブラックカードまでありまーす!」


「スーパーブラック?」


「はーい。7段階あります!」


「7段階ですか。そのスーパーブラックカードを手に入れようと思ったら、何回ご帰宅すればよいのでしょうか?」


「うふ♡ 逆に、何回だと思います?」




「ぷふぅっ!」

(ネ、ネルフィー、スーパーブラックになりたがっとる。ハマらないって言ってたくせに興味津々じゃん!)


「そ、そうですね。ひゃ、100回とか?」


「ちっ、ちっ、ちっ! 甘いですよ、ご主人様……」


「あ、甘い!?」


「はい。5回でシルバーカード♡」


「シルバー……」


「50回がゴールドカード♡」


「ゴールド……」


「200回がクリスタルカード♡」


「ク、クリスタル……!」


「500回でプラチナカード♡」


「うおう……」


「2000回でブラックカード♡」


「2000回でブラック? と、言うことは、スーパーブラックは……」


「スーパーブラックはー?」


「ご、5000回? ですか?」


「わー、正解ですー♡ ご主人様♡」


「ぷひっ」

(誰がそんなに来んだよ!)


「スーパーブラックカードは5000回お屋敷に帰ってきてくれたご主人様、お嬢様が持てる特別なカードなんです♡」


「5000回。持ってる人、いるんですか?」


「peach Creamのことが大好きなご主人様、お嬢様、たくさんいらっしゃいますので、たくさんいますよ♡ あっ、さっきお出かけになられた、ひぐらしご主人様はスーパーブラックカードなんですよ!」


「そ、そうなのですね」

(ひぐらし? 何者だっ!?)


「ぷひっ!」

(負けるな、ネルフィー!)


「もちろん、ネルフィーご主人様もスーパーブラック目指して下さいね♡」


 キュートなメイドのchiepinちえぴんのウインクに、ネル・フィードの中でなにかが燃え上がった。


 ボォウッ!


「そんなん言われたら、目指さないわけにはいかないですねッ!」


「わー♡ やったー♡ 今日は記念すべき第一歩ですねっ♡」


「もうネルさんてば、ぷひひ!」

(本気か? 本気で言ってんのか?)


「私が50歳になる頃には、スーパーブラックになれるかな?」


「はい! 一生お仕えしまーす♡」


 chiepinちえぴんはそう言いながら、今度はメニュー表を取り出した。


「ネルフィーご主人様は久しぶりのご帰宅なので忘れちゃってるかもしれないので説明しますね!」


「は、はい。お願いします」


「まずはお飲み物です♡ ふりふりシャカシャカみっくすじゅーちゅ♡ メイドのオリジナルカクテルはご主人様と一緒に萌え萌え〜な言葉を言いながら私がシェイカーをふりふり♡ シャカシャカ♡ いたします♡」


「おおおっ! し、してほしい!」


「ぽふっ……!」

(し、して欲しがっとる。ネルフィー完全にハマってきてるやーん!)


 完全にchiepinちえぴんさんのかわいさにハマってしまったネルフィー。そんなこんなでエルフリーナとの約束の時間まで、残り1時間42分。

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