第140話 ゲロゲロの腐神

 私は加江昴瑠と連絡先を交換し、帰宅した。奴は今週末、永遠の方舟の本部へ行き、入信して方舟水晶のネックレスを必ず手に入れる! と興奮気味に私と約束を交わした。


 ネル・フィードの力を使って奴を車椅子ごと天井まで持ち上げたとはいえ、私の言っていることをすべて鵜呑みにしてくれた。バカが付くほどの純粋さ。


『絶望』ってのはなんにでもすがる。正確な判断ができなくなる。すべてを自分の都合よく解釈する。そんな愚かな自分に気づくこともできない。


 だからだね。数あるカルトにも平然と所属してしまう人間が後を絶たないのは。私を含め、狡猾こうかつな人間は分かってる。


 『絶望』の使い方を。







 あれから3日後の日曜の夜、加江から連絡があった。


『今日、俺は永遠の方舟の信者になってきた! ネックレスも授かった。教祖様が優しい綺麗な女の人で驚いた。早く神の力が俺も欲しい! 百合島さんと一緒に戦いたい! 百合島さんの力になりたい!』




 よしよし。手に入れたね。にしても教祖が確か、弥勒院はぐれって名前の綺麗なお姉様だから永遠の方舟への恐怖心が和らいじゃってんじゃん。加江の奴、調子にのるなよ。


 立場というものを分からせなければいけない。腐神とコンタクトがとれたら、きちんと私の、いや、残酷神の意志をその腐神に伝えなくてはいけないね。


 とりあえず、加江にネックレスをつけさせておけば腐神が暴走することはない。加江にも腐神にも残酷神である私の命令に従ってもらう。



 私は加江にメッセージを送った。



『よかったです。大丈夫だったでしょ? そのネックレスは寝る時やお風呂の時も外してはいけないよ』


『汗とかで汚れた時も外していいのは3分以内。その間に綺麗にしてまたすぐ身につけるように』


『私はあなたに力をもたらしてくれる神とのコンタクトにとりかかります。1週間後の日曜日。また会いましょう。場所や時間はこちらから連絡します』


 これでよし。私は人間界を彷徨っているという腐神とのコンタクトに取り掛かることにした。


 私がネル・フィードとコンタクトを取るのには2年かかったけど、今回は1時間かからずにその腐神とはコンタクトが取れた。


 さすが腐神同士。とはいえネル・フィードは言っていた。腐神は基本的に単独行動であると。


 まさか、私の力に恐れおののき逃げたりしないよね? 最初は優しくしてやる。おっ! 話しかけてきた。




『だーれだお前? ゲロッ!』




「ども、どもー!」

(なによ、ゲロって?)


『まだまだ人間界に降り立つには時間がかかると思ったが、そういうことか。貴様も腐神だったのか。ゲロォッ!』


「そうなんですよ。あなたが早く人間界に降りてきたいんじゃないかと思って声をかけたんです」


『ふん。気安く話しかけやがって。なにを企んでやがる! ゲロッ!』


「企むだなんて。同じ腐神として契約者を紹介できたらなって思ったんですよ」


『俺と契約したい奴がいるのか? ゲロゲロッ!』


「ええ。その人間、絶望と野望に満ちています。問題なく契約に至れると思います。私が間を取り持ちますよ。さっさと暴れたいでしょ?」


『当たり前だッ! ミューバのクズ人間を食い殺す為にやって来た。ウズウズしてるぜ。ゲロォッ!』


「分かりました。では7日後の朝、またここに来て下さい。その人間に会ってもらいます」


『分かった。お互い思い切り暴れようや。お前はなにが目的で来たんだ? 見た目も人間のままじゃないか。ゲロ!』


「この姿のままで人間を殺して喰らうのもなかなかオツなものですよ。あなたがその人間と契約したら、私も腐神化して思い切り暴れようと思っています」


『そうか。では7日後ここに来る。それまでどうやって人間を殺すかアイデアを練るとしよう。ゲロゲロッ!』


「お互い楽しみにしましょう」







 ゲロゲロとうるさいその腐神は行ってしまった。さーてっと、うまいことやったるかぁー!

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