第141話 ワインボトル
1週間後。
今日、加江昴瑠と『ゲロゲロ』うるさい腐神を引き合わせ、契約させる。
「ねえ、ネルちゃん」
『誰がネルちゃんだ……』
「あの腐神さ、語尾にゲロゲロって言ってるけど、蛙のつもり?」
『腐神はミューバに降りられるようになると、契約者探しの為に人間界をうろつく』
「ふんふん」
『その時に気に入った物や気になった物、そういったものが人間と契約した際の体を『形作る元』となる』
「じゃあアイツは……」
『蛙が気に入ったのかも知れんな』
「あははッ! 他にもいろいろあるのに蛙にいくとかっ、ウケんだけどっ!」
『ミューバ自体、奇妙な物の塊みたいなものだからな』
「じゃあ、ネルちゃんが有名な女優さんに興味を持ってくれたらさ、一気にパワー全開で契約しても、私は可愛いままでいられるんじゃない?」
『ミューバの人間のメスに興味? 持てんな。私が興味があるのはミューバの『悪魔』という存在ぐらいか……』
「うえ〜、最悪」
ネル・フィードとそんな話をしながら、ゲロゲロの腐神が来るのを待つ。
午前10時、奴はやって来た。
『ゲロゲロッ! 来たぞ。今日、契約者とコンタクトを取ってくれるんだよな? ゲロッ!』
「お待ちしていましたよ。はい。今日契約してもらいます。では姿を現してもらってもいいですか?」
『分かった。ゲロッ!』
返事と共に、天井のあたりからドロドロと腐神がお出ましになった。私は今日の為に用意しておいた、お洒落なスパークリングワインの空瓶を取り出した。
「この中に入っていて下さい。暴れないで下さいよ。割れちゃいますから」
『そんな物の中に? 分かった。寝てるから着いたら起こしてくれ。ゲロッ!』
ドロドロッ! ズルズルズルゥン!
カチッ!
腐神を入れたワインボトルに、シャンパンストッパーできっちり栓をした。これだけ可愛いデザインのワインボトルに入れておけば、加江の警戒もだいぶ和らぐだろう。
いきなり目の前にあのドロドロは、意外とビビりの加江には刺激が強い。故にカモフラージュは欠かせない。
腐神入りのワインボトルをリュックに入れて、加江との待ち合わせ場所に向かう。
『郊外のショッピングモール』
デートみたいな待ち合わせ場所だけど、私が目指すのはその先。合流するのがそこというだけのこと。
「加江君、お待たせ」
「今日は朝からドキドキしてさ、つい家を早く出てきちゃったよ」
「そうなの? じゃあ早速行こ!」
時刻は昼の12時。お腹が少し空いてきたけど、『加江君』にはその前に、食べてもらいたいものもあるしね。今は我慢我慢。
加江は素直に私に着いて来た。『神の力』を手にする為だもんね。誰だって選ばれた人間になりたい。ショッピングモールから歩いて20分。廃工場があるのを私は知っていた。
「この中に入るよ」
「こ、こんなとこ?」
「神の力を得るのに、そんな人目の付くところを選ぶと思う?」
「そ、それはそうだね」
私は人や車がいないのを確認してから、車椅子の加江と共に、錆びた門扉を飛んで超えた。
スタッ!
ガチャンッ!
敷地内にひとけはない。朽ちたフォークリフト数台と、よく分からない黒いコードが、妙に整頓されて置かれていた。
「じゃあ、中に入ろう」
ピッ!
ガチャンッ!
ガガガガガァァッ!
錆びた鍵を念力で壊し、私と加江は工場内へ入った。ここなら誰にも見られることはない。
加江とゲロゲロの双方を騙し、私の手下にする。暴れようものなら、言うことを聞きたくなるまでボコボコにするのみ。
「加江君。さっそく神と契約を交わしてもらうよ」
「この不自由な生活とも今日でオサラバか。そして俺も……」
私はリュックから腐神の入ったお洒落なワインボトルを取り出した。
「そう、加江君も神になるんだよ」
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