第229話 ピンクローザの奇行
3人はバス停で10分後にやって来るバスを待っていた。
「マレッドさんは車の運転はなさらないんですか?」
ネル・フィードの素朴な疑問にマレッドは淡々と答えた。
「私も過去には車を運転していたことがあるんだが、12年前に急に飛び出してきた酔っ払いのじいさんを轢き殺してしまってね。それからというもの運転と老人が苦手なんだ」
「そ、そうだったんですか。それは余計なことを聞いてしまいましたね」
「まったく気にすることはない。不幸な出来事は生きていれば誰にでも起こりうるものだからね」
マレッドがずれた眼鏡を薬指で直した。
「それは妹のピンクローザさんにも、と言うことですか?」
「ふふ。まったくその通りだよ」
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「分かった。話しておくとしよう。まず、ウールップから帰ってきた妹は、大いびきで24時間寝た」
「丸一日? 相当お疲れだったのでしょうね」
「そして、目を覚ますと食事がしたいと言った」
「丸一日寝た後ですしね、空腹なのは頷けますよ」
「ふふ。それがとんでもない量を食べたんだ。普段の彼女からは想像がつかない量を食べた」
「そんなにたくさんですか?」
「妹が食べたいと言うものを母は用意した。と言っても、母の手料理を食べたがることはなく、肉、ピザ、ケーキ。それらを10人前、黙々と食べたんだ」
「肉、ピザ、ケーキ? それらを10人前? ストレスからくる過食症というやつですか?」
「私もそう思った。そして、食べ終わるとまた24時間寝た」
「完全になにかが壊れている感じはしますね」
「妹はそれをこの一週間繰り返していた。そして昨晩、仕事を終えて帰ると、妹のいびきが聞こえないことに気づいた。私は恐る恐る部屋をのぞきに行ったんだ」
「そこで? 悪魔の繭ですか?」
「そういうことになる。しかも両親が行方不明なんだ。まったく連絡がつかない」
「ま、まさか?」
「やめてくださいよ。ネル・フィードさん。その発想、こわい」
アイリッサは震えている。
「ピンクローザは両親を食べたのではないか? 私もその発想に辿り着くのにたいして時間は要さなかった。なぜなら、足元に血痕がいくつもあったからだ。私は身の危険を感じ、昨晩は近所のラブホテルに泊まった」
「だからマレッドさん昨日のスーツのままってことなんですねっ?」
(ひとりでラブホテル? まっいっか)
「そういうことだ。どうだい? ネル・フィード君。ここまで聞いてまだうちに来る気になるか?」
マレッドがネル・フィードの目を見て言った。
「すみません。私的にはますます行きたくなってますよ。マレッドさん的には警察や消防団にでも連絡したくなりましたか?」
「ふふ。不思議なものでね、君に話をすればするほど、君に来て欲しくなる。君は一体何者だ?」
「なにを言ってるんですか? 知っての通り、ただの工場勤務の工員です」
「ふふ。そうは思わない」
「…………」
(な、なんかふたりの世界に入ってなーい? 悪魔の繭かぁ。怖いけど、なんかネルさん強そうだし。大丈夫だよね?)
ブロロロロロロ……ッ!
定刻通り、バスがやって来た。
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