第230話 エチエチと行方不明事件

 バスに乗り込む3人。


 プシュー!


 ブロロロロロロォッ!



 ネル・フィードは座席に座り、外の景色を眺めながら考えていた。


(食って寝てを繰り返し、十分に栄養と休息を摂ったピンクローザ。最終的に人をも食らいまゆに籠った。普通に考えれば繭の中で変態するのだろうが、ミューバの悪魔。実力は未知。腐神レベルなら問題ないのだが……)


 そんなバスの車内、休日を楽しむキュートなギャルたちの会話が耳に入ってくる。大半がたわいのない話だったが、ネル・フィードが気になる内容もそこには含まれていた。



「でさ、知ってる? こないだ先輩が死んだのって、『エチエチ』のせいなんだって!」


「うわ〜、噂の激やばドラッグやないか〜悲惨だわ〜」


「めちゃモテモテの美人だったのにね〜もったいね〜! あの人死ぬぐらいなら代わりに死んでもいいブスたくさんいるじゃんね!」


(ドラッグか、カテゴリー8。やはり愚かな面があるのもいなめん……)


「相当キマると気持ちいいらしいけど、死んだら意味ないよね〜」


「まじいらね〜し! あたしはダーリンのちんこで十分きもてぃーし!」


「あはは! でもでも、それよりもヤバいの知ってる?」


「なに?」


「ここんとこディーツで起きてる、かわいい女の子だけを狙った連続行方不明事件だよ!」


「あーそれな! 確かもう5人は消えてるべ? やっぱ殺されてんのかな?」


「そうなんよ。だからさ、あーしらも暗くなる前には帰ろっ! てわけ」


「そうね。あたしらどうみても超絶かわいいもんね!」


「そうそうっ! 変態の完全なるターゲットになりうる存在だべ! キャハハハ!」


(ディーツの行方不明事件か。ニュースで聞いてはいたが、こうなってくると全てが悪魔と関連しているように思えてしまうな……)



 ブォンッ! ブロロロロロロォッ!




『次はアルテュッケ橋です』

 



「では、降りるぞ。2人とも」


「はい」


「は〜い」




 プシューッ!




 3人はバスを降りた。マレッドの家は、ここアルテュッケ橋から徒歩2〜3分。ついに悪魔の繭をこの目で見ることができる。ネル・フィードはある種の興奮状態にあった。



 アルテュッケ橋の架かる川のほとり、緑溢れる広い庭。その中に青い屋根の木造2階建てのマレッドの家はあった。あの家の中に悪魔がいる。繭の中に潜んだ悪魔が。


 マレッドを先頭に玄関の前までやって来た。マレッドはバッグから家の鍵を取り出したが、そこで動きが止まってしまった。


「ネル・フィード君。私はこの扉を開けるのが少し怖いよ。ひょっとしたらもう妹が繭から出てきている可能性もゼロではない。妹の変わり果てた姿を見たくない」


 マレッドの鍵を持つ手は震えている。それほどまでに、悪魔の繭に包まれた妹の姿は衝撃的だったのだ。


「マレッドさん、鍵を。今のところ、この家の中から強い力は感じない。大丈夫だと思いますが、念の為にここからは私が先頭になりましょう」


 ネル・フィードの怖気付くどころか率先して前を行くという力強い態度に、ますますマレッドの中のネル・フィードに対する謎が深まった。


「君は本当に何者なんだ? さっきのケンカの時といい。そうか! 分かったぞ! 君は伝説のエクソシストってやつなのではないか?」


「エクソシスト? じゃあ見習いということでお願いします」

(悪魔の知識もないのにエクソシストもないものだが、こう言っておけばこの後ダークマターの力も使いやすいというものだな)


 マレッドもアイリッサも、ネル・フィードのその言葉を聞いて、さっきの大男に対する不思議な力についても納得できた。


「ネルさん、気をつけて下さいね!」

(神不要論者でエクソシスト見習い? こ、この人やっぱり面白すぎるっ♡)



 ガチャ!



 ネル・フィードは、悪魔が潜む家のの鍵を、恐れることなく開けた。

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