第231話 as usual

 ギイィィィィッ


 ネル・フィードはゆっくりと玄関の扉を開けた。感覚を研ぎ澄まし、悪魔の出現に警戒する。


「ネル君、妹の部屋は2階だ。そこの階段を登って……」


 マレッドがそう言った瞬間だった!


「誰ですかっ!?」


 2階ではない、1階の奥の部屋からひとりの女が顔だけ出してコチラを見ている。マレッドと同じ黒髪、青い瞳。整った顔立ち。


「マレッドさん、彼女がピンクローザさん、ですね?」


「そ、そうね。妹よ」


「綺麗な人〜」


 ピンクローザはネル・フィードの後ろのマレッドに気づいて笑顔になった。そして玄関にやって来た。


「姉さん、驚かさないでよ。お友達? めずらしくないっ?」


「あ、あんた、具合はどうなの?」


 この1週間。繭に包まれるまで、猛烈な睡眠と食事を繰り返していた時の彼女との雰囲気の違いに、マレッドは完全に戸惑っていた。それは更なる恐怖も同時に湧きあがらせていた。



「具合? すごく良くなったよ。仕事の疲れも取れて、悩みも解消できたかな。心配かけてごめんね」


 そう笑顔で話すピンクローザには悪魔のカケラも感じられはしない。逆にマレッドの顔色はますます悪くなる。


「ローザ、あんたお父さんとお母さん、どこに行ったか知らない?」


 マレッドは怯えながらも、核心に迫る質問を投げかけた。それに対し、ピンクローザは驚いた顔をして答えた。


「姉さん、なに言ってるの? 2人とも3日前に旅行に出かけたんじゃない? どうしたの?」


「3日前に旅行?」

(そんなはずはない。両親とも昨日の朝、自分が出勤する時まで確実にいた。3日前に旅行なんてありえない!)


 続けてマレッドは例のことにも触れる。


「あんた繭に籠ってたのよ。覚えてないの? 自分の部屋のベッドの上で!」


「ちょっと。気持ち悪いこと言わないで。お客様の前でやめてよ!」


 笑いながらも不快感を表すピンクローザ。彼女は話題を逸らすようにネル・フィードとアイリッサに話しかけた。


「おふたりとも上がって下さい。姉さんがお友達を連れてくるなんて本当にめずらしいんですから。さっ、どうぞっ!」


 ピンクローザはスリッパを出し、可愛い笑顔で2人を招き入れようとしている。


 マレッドは囁くように言った。


「ネル君、私は嘘はついていない」


「分かってます……」


 確かにマレッドの話とのギャップにネル・フィードは困惑していた。だが、ここで引き返すわけにはいかない。エクソシスト見習い(仮)として出されたスリッパを履いた。


「では、お邪魔します」


「どーぞ、どーぞ!」

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