第14章 ささやき 2
第92話 安西鉄男
『安西っ! 安西っ!! 決めた───っ!! 背負い投げ一本っ!! 金メダルううぅぅー!!』
深夜の暗い部屋で1人、俺は自分の過去の栄光のDVDを見ている。
『
22歳で柔道オリンピック初出場。見事に金メダル獲得。その後、連覇を期待されるもオリンピック出場すら叶わなかった。
『練習の鬼』
『トレーニングの怪物』
周りの人間は俺をそう呼んだ。決して傲り高ぶりなどない。日々努力、日々精進していたんだ。
『なのに勝てない』
自分でも原因が分からない。意味が分からない。そんな日々を過ごしていた。
そして30歳で迎えたオリンピックイヤー。
世間はゼロワールドなんて狂った奴らの話題で盛り上がっていたが、俺たち柔道家にとってはオリンピックの方が大事なのは言うまでもない。俺には年齢的にも最後の挑戦なのだから。
「はあっ! はあっ! はあぅっ!」
オリンピック出場を賭けた大事な大会。その1回戦、相手は若手の期待の星。
バシッ!
「うおっと」
相手のなにげない足払いにもあっさりと体勢を崩してしまう。スピードにも圧倒される。
『お前、いつまで柔道やってんだよ』
「はっ!」
試合中に相手選手がそんなことを言うわけがない。だが、俺の耳にはそう聞こえた。その瞬間。
ズドーンッッ!!
「一本、それまで!」
見事な『体落とし』で一本。
『もう1度、五輪で金メダル』
俺のその夢は完全に打ち砕かれた。
「終わったんだな……これで」
ガチャンッ!
俺は鉛を飲み込んだような胃の重さと、思うように動かない体を引き連れて帰宅。ベッドに倒れ込んだ。
バフッ……!
「こんなことなら金メダルなんて取らなきゃよかった。あんなにチヤホヤしてた奴らもどこにもいない。見返してやりたかったなぁ。かっこいい自分をもう一度見せたかったなぁ……」
俺はそのまま寝てしまった。
そして深夜、目が覚めた。
俺は泣きながら自分が金メダルを獲った試合のDVDを再生していた。
「俺の人生のピーク22歳かよ。もうなにをやっても俺はダメだ。つまんねぇ人生だぜ。最近話題のゼロワールドに入って、世の中めちゃくちゃにしてぇなぁ。迎えに来やがれ!」
そんなことを冗談で口にした、その時だった。耳元で誰かが囁いた。
『世の中、めちゃくちゃにしますか? あなたはダメなんかじゃあ、ありませんよ』
「うおっ! 誰だっ!?」
『あなたのその鍛えあげられた肉体を柔道などという陳腐なモノに捧げるだけではもったいない……』
「柔道が陳腐……」
『そうです。そんな枠に囚われる必要はなかったのです。あなたをチヤホヤしたメディアもすっかりあなたの存在など忘れてしまっているのですよ』
「誰も、いなくなっちゃった……」
『こんな世の中ぶっ壊すべきです。くだらないオリンピックなど開催させませんよ。あなたの力で全部ぶっ壊せるのです。我々、ゼロワールドに加わればね。ケケケッ』
「オリンピック……ぶっ壊す! 俺が出られないオリンピックなんて必要ないッ!!」
『そうです。あなたの力は腐神と契約し、同化することにより花開くのですよ』
「腐神と……花開く!」
『さあっ! 腐神『
「俺はもう一度、輝くんだぁあ! んごっ!? んごごごっ……!」
すると、口の中に勢いよく腐神という臭いドロドロの物体が飛び込んできたんだ。息ができない、苦しい!
俺の記憶はそこまで。気づいた時には俺は3メートルの巨体のサイ人間になっていた。
『ケケケッ! 貴様は今日から腐神『強暴』と契約を交わした『ライノマン』! 誰にも負けない剛力の持ち主になったのだ。ではゆくぞ、ついて来いっ!』
『すげぇぜ! この力で全てを破壊してやるっ! 無敵無敵っー!!』
こうして、ゼロワールドは新たな腐神を増やしていく。
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