第53話 手紙
ゼロワールドの『永遠の方舟信者探し』とも取れる行動を知った藤花に、重く不安がのしかかる。
「方舟信者に、何をするつもりっ?」
人類滅亡を目的とするゼロワールドが、永遠の方舟信者だけを殺さないなんて事はない。更に酷いことをしようとするに違いない。藤花は唇を噛む。
「お父様、お母様……」
(もう家には帰らないって思っていたけど、やっぱり心配だよ。髪もこんな赤いし、眼鏡もしてない。たぶん会っても私と気づいてもらえないな……)
「藤花。ご両親が心配だよね?」
藤花の心中を察したイバラが、優しく声をかけた。
「親も方舟信者だから、恐怖の感情が欠落してる。危ないのに、普通に生活しちゃってると思う」
「そっか、神に守られてるから何も恐れるものはないってやつね?」
「そう、それ。そのせいで私は杏子ちゃんを失ったんだもん。あの時の自分が、バカに思える……」
「とりあえず腐神は倒したし、家の様子、確認してきた方がいいよ。藤花」
「う、うん! 見てくるねっ!」
「ひとりは危ない。ワシと2人で飛翔で行くかのっ!」
「ありがとうございます。陣平さん」
「陣さん。藤花をよろしくね!」
「腐神がまた現れても、さっきみたいな不覚はとるんじゃないぞ! 3人でやっつけるのじゃ!」
「うん。気をつけるっ!」
藤花と陣平は、飛翔で黒宮家に向かい飛んでいった。
「さてと……」
(私もママが気になるけど、無事でいてね。腐神は私たちがやっつけるからッ!)
腐神ヘドロを倒すのと同時に、地面に沈んでいたイバラの軽トラは、ちゃんと浮上してきた。
「よかったぁ! 私の愛車っ♡ 戻ってきてくれたー!」
イバラは愛車を抱きしめ頬ずりした。
「じゃあ、ひとまずはアンティーの所に戻りましょ♡」
「ふたりともまた荷台に乗ってっ! 腐神がいないか目を光らせておいてよねっ!」
「おっけぇ♡」
「もう、負けないんだからっ!」
イバラ、美咲、真珠。3人は腐神の強襲に気を配りながら、来た道を戻って行く。
シュ─────ッ!!
ビシュン!
ビシュンッ!
藤花は、陣平と共に猛スピードで我が家を目指し、飛んでいた。
「クロちゃんちは近いのか?」
「
「親御さん、無事だといいのう」
「はいっ!」
ビッシュンッ!!
しばらくすると、赤い外壁の黒宮家が見えてきた。こうして空から見るとやはり一際目立っていた。
「あの赤いやつです! 私の家っ!」
「パンティーと一緒の色じゃな♡」
「はいはい。そうですねっ!」
(もう、気にならなくなっちゃった)
ビッシュンッッ!
スタッ!
スタッ!!
藤花と陣平、黒宮家到着。
「静かですね。ひとけを感じない」
「じゃな……」
昨日、鬼の形相の母に突き飛ばされる様に追い出された我が家。いろんなことがありすぎて、昨日のこととは思えなかった。藤花は玄関に目を向けた。
「ああっ!!」
玄関のドアに、腐神ヘドロの物と思われる泥の塊がべっとりと付いているのが確認できた。そして、よく見れば隣の家は窓ガラスが割られ、奥には隣人の遺体が見えた。
「お母様はっ!? どこっ!?」
「クロちゃんよ! よく見ろっ! あれは手紙ではないのかっ!?」
陣平の言う通り、玄関の郵便受けには手紙らしきものが挟まれていた。
「手紙!? 手紙なのっ!?」
藤花は玄関に駆け寄り、郵便受けからその紙を取り出した。
「お、お母様だっ!」
手紙にはこう、書かれていた。
藤花、戻ってきたのね?
無事でよかったわ。お母さんも無事です。化け物に襲われそうになったけど方舟様のお陰で助かりました。
本当に永遠の方舟の信者でよかった。
私たちは助かります。
私はお父さんと連絡を取り、TK都にある永遠の方舟の本部に行く事になりました。
あなたも知ってるとおり、本部には終末を乗り切る為のシェルターがあるのです。
全国の方舟信者が集まるはずです。あなたも早く来なさい。待っています。
「永遠の方舟の本部に? なら大丈夫だ。よかったぁ!」
「クロちゃんよ、ゼロワールドは永遠の方舟の信者は殺さないってことじゃなぁ? その手紙の内容からして」
「そ、そうみたいですね」
「永遠の方舟。すごい力じゃな。腐神が手を出せないとはっ!」
「はい。すごいんですっ!」
(方舟様、ありがとうございます。でも、やっぱり何か違和感がある……)
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