第52話 ある質問

 ビッシュンッ!!


「大丈夫ですかッ!?」


 イバラは光速移動で駆け寄り、倒れている男に声をかける。


 ビッシュンッ!!


 続けて藤花も駆け寄る。


「どうしたんですかっ? 襲われたんですか!?」


 意識朦朧のその男は、途切れ途切れに話し出した。他の3人も駆け寄り、男の話に耳を傾ける。



「き、君たち……逃げないと……泥の塊に……襲われる……ぞ」



 やはり、この男は腐神ヘドロに襲われたようだ。まだ息はあるものの、命の灯火ともしびが消えようとしていることは5人ともすぐに分かった。


「ま……さか……ゼロワールドとか……本当だったんだ……出歩かなきゃ……よかった……」


「もう、話さなくて大丈夫ですよ」

(残念だけど この人はもうすぐ死ぬ。腐神、本当に人類を滅亡させる気なの!?)


「さ、最期に……君たちにいいことを教えといて……あげるよ……はぁ、はぁ」


「いいこと?」


 その『死にかけの男』の言葉に、その場の5人、特に藤花は驚きを隠せなかった。


「いいか……よく聞けよ……俺は……その泥人間に襲われる前に……『ある質問』をされたんだ……」


「質問じゃと?」


「どんな質問だったのぉ?」













「お前は『永遠とわの方舟の信者か?』そう、言われたんだ……」









「と、永遠の方舟!?」


「藤花、それってっ!?」


「そうだよ。私が信仰している宗教、方舟様。な、なんで?」


 藤花は訳が分からず愕然としていた。イバラは意識を失いそうな男の肩に手を置き、軽く揺らす。


「ちょっ、あなたはその質問になんて答えたわけ?」












「そ、そんなもんは知らない……信者では……ないと……言った……」






「えっ? 信者じゃない人間は殺すってこと? それってどういう……」


「だ、だから……君たちは……永遠の方舟の……『信者』だ……と言えばいい。助かるかも……知れない……」


 そう言い残し、男は死んだ。





 イバラは永遠の方舟について、藤花に確認しつつ、一通り皆に話した。








「ゼロワールドが『殺す』『殺さない』を選んでおると言うのにも驚いたが、その判断基準がクロちゃんの信じておる宗教とはまた驚きじゃ。永遠の方舟か……」


 イバラは理解も納得もできず、頭の中が『?』だらけだった。


「ゼロワールドって残酷神を信仰、崇拝するカルト教団でしょ? それが、なんで永遠の方舟の信者は殺さないわけ? 逆ならまだ分かるけど」


「確かに謎じゃが、永遠の方舟の信者は殺さないと決まったわけでもないがな」


「そうねえ。『信者ですぅ』って言った後、次の質問が待ってるのかも知れないわねぇ」


「藤花さん、大丈夫?」


「美咲ちゃん。ありがとう。大丈夫、少しびっくりしたけど……」

(永遠の方舟の信者は殺さないなら、なんで杏子ちゃんは殺されたの? 意味が分からない!)


 ゼロワールドと永遠の方舟を繋ぐ『なにか』があるのか? それとも別の目的があるのか? 永遠の方舟信者、黒宮藤花は完全に混乱していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る