第54話 たまたま

 藤花は母の無事を確認できてひとまずは笑顔。とはいえ、妙な感覚が消えることはない。


「クロちゃん、ひとまず、正男のところへ戻ろうかのう」


「はい。一緒に来て頂いて、ありがとうございました!」


「礼には及ばん。西岡さんも言うとった。ワシらは運命共同体じゃ」


 藤花と陣平は、再び飛翔で風原家へ向け飛び立った。


 シュンッ!


   シュンッ!









「ただいまー」


「ただいまじゃ」


「おかえり。藤花、陣さん。どうだった?」


「うん。2人とも無事で一安心」


「そっかぁ、よかったね」


 先に帰ったイバラ、美咲、真珠の3人は、疲れた笑顔だった。


 腐神ヘドロとの戦い。


 危うく命を落とす所だった。皆、少なからず何かを削られ、消耗していた。そこへ正男がくさびを打ち込む。


「陣平さん。ありがとうございました。あなたがいなかったらしていたらしいじゃないですか」


 正男は敢えて『全滅』と言った。今後の戦い、さらに厳しくなるのは目に見えている。少しの油断もあってはならない。それを改めて皆に分からせる為の言葉だった。


「わはは。そうじゃなぁ、あれは」


「私たちも決して油断してたわけじゃないんだよ。突然過ぎっ!」


「激しく同意。いきなり沼った」


「メデューサがなんの役にも立たなかった。驚いたわ……」


「私の炎の剣も、効かなかった」


 和室の雰囲気が暗くよどむ。陣平は勇気づけるように、皆の背を叩いてまわった。


 バンッ!


 バンッ!


 バンッ!


 バンッ!


「なにをそんな露出狂のちんこ見たような顔をしとるんじゃ! へこむでないわ! 今回のうんこ腐神との戦い、すべては相性じゃ!」


「相性、ですか?」


「そうじゃ。西岡さんのメデューサ、クロちゃんの炎の剣。どっちも威力は申し分ない。じゃが奴にはただの吹き抜ける風に過ぎんかった。違うか?」


「そ、そんな気がします。まるで手応えがなかったんですっ!」


「メデューサも突き抜けて、なにもダメージを与えられなくてね」


「まさに『暖簾のれんに腕押し』じゃな。今回のような奴には、たまたまワシの命の炎の特性がヒットしたんじゃ」


ですか?」


 陣平の耳が、ぴくりと反応した。


「クロちゃん、もう1回言ってくれ」


「えっ? ですか?」


「もう1回……ゆっくりとじゃ!」


「たぁ、まぁ、たぁ、まぁ?」


「はぁ、はあっ♡ そ、そんなに玉が好きかえっ!?」


 バコンッ!!


「うがっ!」


「エロジジイ。玉、取ってあげよっか?」


「イバラちゃんっ、か、勘弁じゃっ! うほほほっ!」


「陣平さんっ! たまたまって、じゃあ、どんな相手になら私たちの命の炎は役に立てるんですかっ?」


「そうじゃのう。ワシのナノレベルは素早い動きの相手や勘の鋭い奴、あとは硬そうな奴、その辺とは相性が悪そうじゃ。その時は頼むぞっ!」


「素早い、硬い、勘が鋭い。それは誰でも大変ですよお……」


 藤花は泣きそうな顔で、深いため息をついた。


「自信を持つのじゃ。互いが互いを補う。それは決して弱いわけではないぞ。自分のやるべきことをやる! 分かったか?」


「はい。分かりました」


「分かったわ、陣ちゃん♡」


「うん! その通りだねっ!」


「激しく同意!」

(エロジジイ、やっぱカッコいい♡)








 しばらくして、夕方のニュースが始まった。トップニュースは……




「みんなっ! ゼロワールドだよッ!」



 ゼロワールドからのメッセージが再びYouTubeに上がったようだ。

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