第55話 朗報

『ゼロワールドの仕業と思われる殺人事件が多発しています! みなさん! 身の安全を確保して下さい!』


『そして先程、ゼロワールドの新たな動画が公開されました! こちらをご覧下さい!』



 テレビ画面に、黒のマントで身を包み、髑髏の仮面を被った灰色の髪のあいつが映った。



「こいつッ! 今度はなにっ?」

(さっきのドロの腐神を倒されたことに、もう気づいたのかも知れないっ!)


 牙皇子は予想とは反して、明るい声で語り出した。


『みなさんこんばんは。ゼロワールド教祖 牙皇子狂魔です。今回は素敵な情報をお伝えする為の動画です』


「素敵な情報じゃと?」


「なにかしらね♡」


『どうやら我々ゼロワールドに立てつく存在は、なかなかの実力の持ち主のようです。また仲間がひとり消されてしまいました』


「ワシらの実力を認めおったわ! わっはっはっ!」


「エロジジイ強かったもん!」


『力ある者よ。当然 今この動画を見てくれているんでしょうね。まずは貴様らに素敵な情報を伝えるとしよう』



「嫌な予感っ!」



 藤花の嫌な予感は的中する。



『貴様らの倒した腐神。あれはハッキリ言って捨て駒だ。あのレベルの腐神で死んでもらえれば楽ではあったがな』


「捨て駒? 陣さんの言ってた通りみたいだね」


「やはりそんなとこじゃったか!」


『さて、現在 私を含め3人となったゼロワールドだが、すでに6体の腐神とのコンタクトに成功している』


「ゼロワールドが9人に? カエル野郎が一気に遠のいた気分……」


『なかなか凶悪なやつらだ。楽しみにしていて欲しい』


「うふ♡ 一気に増員しちゃうのね」


「その激しくヤヴァい腐神が人間と融合する前になんとかできないかな?」


「ドラゴンレーダーみたいな、腐神レーダーなんてのがあればねー。正男さん、作ってよ!」


「無理です」


『それでは次に、全国民のみなさんに朗報です!』


「私たちにだけじゃないのーっ?」


「全国民って、なーにかしら♡」







『永遠の方舟という新興宗教をご存知の方、いらっしゃいますか?』







「うわっ! 牙皇子の口から永遠の方舟が出たよーっ! 藤花!」


「なによ、なんなのよっ!」

(こんな奴に語られたくもない!)


『我々ゼロワールドは永遠の方舟の信者には手を出さない。はい。そうです。殺しません』


「やっぱりそうじゃ!」


「本当なの? なんなのっ?」


『しかし、ただ口で『永遠の方舟の信者だ』と言ってもそれは無効。信者にはそれを証明する物がある。それの提示が必要不可欠です』


「藤花っ、そんなものがあるの?」


「あるよ。これ」


 藤花は胸元から不思議な輝きを放つ宝石で作られたネックレスを出した。


「『方舟はこぶね水晶すいしょうのネックレス』これを身につけることが信者の証であり、喜びなの」


「えーっ! 藤花っち! それ超かわいい♡ 私も欲しいーっ♡」


『浅はかな人間は、それを求めて永遠の方舟について探りまくるのだろうが、残念ながら、それはもうない。ゼロワールドが全て頂いた!』


「激しく馬鹿にしてるー!」


「人類をおちょくっておるな……」


『残念だったな。信者になっていれば死ななくて済んだものを。永遠の方舟の存在を知っておきながら入信しなかった者たちの後悔は凄まじいだろうなぁっ! ウケるっ!』


「なにが朗報よ! バカ皇子っ!」


『昨夜のニュースで言っただろう? 嘆き、怯え、苦しんで滅びゆくがいいと。与えた希望を一瞬で踏みにじる。実に愉快だ。3日。その間にこちらはじっくりと新たな腐神との契約者を探すとしよう』


「3日後には6体の新たな腐神が誕生する方舟様を軽々しく語った罪は大きいんだから。絶対に許さない」


『せいぜいその3日で好きなことをすればいい。どうせ貴様らは死ぬのだから、窃盗、殺人、強姦、やりたい放題だ。朗報だろ?』


「クロちゃん、こりゃ さらに世の中めちゃくちゃになるぞい……!」


「ど、どうしたらっ……!」


 青ざめる藤花をみて、いてもたってもいられず、美咲が口を開いた。


「ブラック・ナイチンゲールも……」


「なあに? 美咲っち?」


「ブラック・ナイチンゲールも動画を出す! てのは、どうかな?」


「ほう。牙皇子の言う『力ある者』の存在を、ちゃーんと示すことにより、世の混乱を抑えられるかも知れん。美咲、ナイスじゃ!」


「わ、私は恥ずかしいな」


「そうなの? じゃあ、藤花はお面でもつけたら?」


「そ、そうしよっかな」


「うふふ♡ 余命3ヶ月でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのねー」



『では3日後。また動画をあげる。その時まで、束の間の幸福を味わうがいい……』



 画面がスタジオに切り替わった。


『い、以上です。内山さん。人類滅亡まであと3日、と言うことなのでしょうか?』


『3日後、本格的な行動を起こすということですね。ですが、ゼロワールドの言う『力ある者』の存在が、我々人類の最後の希望という気がしますね。実際に腐神という存在を2体倒してくれているようですし』


『そ、そうですね、果たしてその『力ある者』とは一体何者なのか? 気になるところです!』


 真珠は化粧を直し始め、陣平は腕立て伏せ、イバラは髪型チェック、美咲はかわいい表情の練習をし始めた。


「うわあ……」

(みんな、動画撮る気満々だよ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る