第149話 背徳のシナリオ
私と加江は深夜のW市を飛んでいた。『ゼロワールド』のアジト、本拠地を探す為だ。
『百合、じゃなくて牙皇子様はなんで『牙皇子狂魔』と名乗ることにしたんですか? めっちゃ男っぽいんですけど。ゲロゲロッ!』
『後で全部話すよ。まずはアジトを決める。よし、あのオフィスビルの最上階に行ってみよう!』
『ゲロッ!』
ギュンッ!
ギュンッ!
大きな窓から中を覗くと、なにもなく、使われている形跡はなかった。ちょうどいい。ここをゼロワールドの本拠地にしよう。
『ディメンショナル・ドアッ!』
ブオォンッ!
そう言って、私が手をかざすと空間が裂ける。ガラスを割ることなく、室内へと侵入できた。
『さてと、これから集合するのはここだ。分かった?』
『ゲロゲロッ!』
『もし、誰か来たら殺せ。部屋は汚さないように。綺麗に食べちゃって』
『ゲロゲロッ!』
『おっ? 大丈夫なの?』
『不思議と恐いとかキモいとかないですね。ゲロッ!』
『ふっ、それも神の力のおかげってわけね……』
『牙皇子様。今後の計画、ゼロワールドのなすべきこととは? ゲロッ!』
『よくぞ聞いてくれた。いいか。今から話すことをよく聞けッ!』
『分かりましたッ! ゲロッ!』
私は練りに練った『藤花の心を鷲掴みにする計画』を加江に教え、協力させることにしたんだ。
『まず、あんたがすること その1。ここW市の人間を最低でも1日5人は殺すこと。食べちゃって構わない』
『最低でも5人ですね。ゲロッ!』
『そして その2。指定した日時に、私の頭を食いちぎり、殺すこと!』
『ゲロォッ? それはどういうことですかッ!? ゲロゲロッ!』
『決行日、私は藤花と『アリの巣』っていう喫茶店に寄る。そこであんたに連絡を入れる』
『はい。ゲロッ!』
『ケーキを堪能してアリの巣から出てきた私たちの前に、あんたはタイミングよく現れる……!』
『タイミングよくですね。ゲロッ!』
『そして、私の頭を藤花の目の前で食いちぎるの。ブシャアってね!』
『分かりましたけど、なんの為にですか!? ゲロッ!』
『藤花の心に『私』という存在を思いっきり刻み込む為よッ!』
『ゲッ! ゲロォッ!?』
『私はあんたに頭を食いちぎられたぐらいて死にはしない。頭を飲み込んだまま、ここへ戻ってきて頭を吐き出してちょうだい』
『だ、大丈夫なんですね? ゲロッ!』
『残酷神の力をみくびるな。首から下はここで再生する』
『わ、分かりました。ゲロゲロッ!』
そうだ。ネルちゃんに確認しておくことを思い出した。私は体内のネルに話しかけた。
『ネル・フィード! 起きてる?』
『ああ、なんだ?』
『今、腐神界にはそれなりの数の腐神がいるように感じるんだけど。私の勘違い?』
『ほう。そこまで感じ取れるようになったか。確かにいるにはいるが、腐神界は宇宙空間だ。地上からのコンタクトは容易ではない』
『やるだけやってみる。とりあえずあと3人は増やしたいの。そして、その後も増やしていくつもり』
『せいぜい頑張れ。組織など
『そう? 楽しいわよ』
ネル・フィードは私の意識の奥へと引っ込んで行った。宇宙空間の腐神界。そこには腐神がまだまだいる。勘違いじゃなかった。
私は残酷神の力を確実に扱えるようになっている。その手応えに
『あの、牙皇子様。ゲロッ!』
『なに?』
『ひょっとして、牙皇子様は黒宮のことがかなり『お好き』ということなんでしょうか? ゲロッ!』
『ひょっとしてじゃない。藤花は私の恋人よ。SEXだってしてるんだから』
『ゲッロォオッ!? そ、そうだったんですかっ! ゲロゲロッ!』
(あの黒宮がSEXねぇ……しかも女同士とは。想像できん!)
『最近さ、私の愛する藤花が、天使イバラとかいう底辺くそ地下アイドルに心を奪われてしまっているのよ』
『そうなんですか。ゲロゲロッ!』
『また今度、ライブに付きあわなくちゃいけないのよ。超ダルいわけ』
『それは、そうですね! ゲロッ!』
『愛する私を目の前で殺されて、藤花はかなりショックを受けると思うの。でも、それで終わりじゃない!』
『な、なにを? ゲロッ!』
『そこで人類滅亡を目論む、カルト教団ゼロワールドが登場するのよ!』
『なるほど。黒宮はゼロワールドに愛する彼女『百合島杏子』を殺される。という筋書きですね?』
『そうよ。そして、この先に重要な展開が待っているのよ』
『と、言いますと? ゲロッ!』
『ゼロワールドは『永遠の方舟』の信者は殺さない。『永遠の方舟』の信者だけが生き残り、新世界を創世するの!』
『ゲロゲロッ!』
『だから人を殺すときは、ちゃんと永遠の方舟の信者かどうかの確認は怠らないでよ。分かった?』
『分かりました。あっ、そうなると牙皇子様、百合島杏子は永遠の方舟の信者。矛盾が生じてしまいますが……』
『大丈夫よ。私は生きているんだもの。感動の再会が待っている。ただそれだけのことじゃん!』
『死んだと思っていた恋人が生きていた。なんて映画ですね! ゲロッ!』
『藤花がうれションする姿が目に浮かぶわよ。これで天使イバラなんて藤花の頭からは消えるはず!』
『ですね! ゲロッ!』
『私の存在の大きさに気づくに決まってるわ。天使イバラが死んでも、これでもう安心ね……』
『ただ単に天使イバラとかいうアイドルを殺したとしても、黒宮の『心の中』に生き続けていては意味がない、ということですね? ゲロッ!』
『加江、分かってんじゃん。残酷神の力で記憶を消すことも可能かも知れないけど、私との思い出まで消えたら嫌だからあまりやりたくないんだよね』
『なるほど。あっ、そうだ。牙皇子様。ゲロッ!』
『なに?』
『さっきも聞いたことなんですけど、なんで『牙皇子狂魔』っていう男みたいな名を名乗ることにしたのですか? ゲロッ!』
『あーそれね。知りたい?』
『知りたいです♡ ゲロゲロッ!』
『私は古い時代の本を読むのが趣味なのよ。明治の作家『
『知りませんね。ゲロッ!』
『無理もないわ。『知る人ぞ知らない』レベルの作家だもの』
『知る人ぞ知る、どころか、知らないんですね? ゲロゲロッ!』
(そんなん誰も知らんやろっ!)
『私は甘夏の『牙の皇子』という作品が大好きなのよ』
『なるほど、それで牙皇子っ! ゲロゲロッ!』
『それと『
『そうだったんですね! よく分かりました! ゲロゲロォ!』
(膝の瘡蓋ってどんな小説なんや? よく分からん)
『牙皇子狂魔なら、ゼロワールドの教祖が女であるということを藤花に悟られにくいしね。ギリギリまで、私の正体はバレないようにしたい』
『ゲロゲロッ! ある程度の人間を殺して、永遠の方舟の信者が崇められるレベルの世界を作ったところで……』
『そうっ! 杏子ちゃん登場よッ!』
『ゲロゲロォッ! それは凄いシナリオですね! ゲロッ!』
『死んだと思っていた愛する人と理想の世界。藤花はその2つを同時に手に入れるの。喜ぶ顔が目に浮かぶわ!』
『黒宮は永遠の方舟を妄信していましたからね! 間違いなく狂喜乱舞するでしょう! ゲロゲロッ!』
『だよね? ゼロワールド計画。これは藤花に捧げる私の愛なんだから。最初はちょっとビックリさせちゃうけど、許してね。藤花』
こうして私と加江は
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