第150話 罰天堂の快楽殺人者
『みなさん、こんばんは。ニュース
『はい。V県のW市で『カエル男による殺人事件』が発生しているというニュースです。目撃者によるとそのカエル男は被害者を『食べていた』とのことです。これは驚きのニュースですが、事実なのでしょうか?』
ついに世間がざわつきだした。
加江、うまくやってんじゃん。
3日後のニュースで、殺人カエル男は『フロッグマン』と呼ばれるようになっていた。これからは私もそう呼んでやることにした。
満開のSAKURAのライブまであと1週間。私は宇宙空間の腐神界に意識を集中していた。8体いるのは分かったんだけど、ネル・フィードの言った通り、なかなかコンタクトが取れない。
そんな中、私は感じていた。
弱いけど、私とフロッグマン以外に腐神との契約者が『地上』にいる。
今まで全く気づかなかった。残酷神の力を引き上げ、腐神とのコンタクトに全神経を傾けたから感じとれた。そのぐらい、その腐神の力は弱々しかった。
どこに隠れてんの?
私は腐神界から、地上にいるその腐神に意識を切りかえ、どこにいるのかをさぐった。
近い。そして、私はその場所を知っている。歩いて行ける距離にその腐神はいた。
『古本
私が7年前、『腐神の本』と出会った場所だ。この中に腐神がいる。
ギイ……
私は罰天堂の扉をあけた。
「いらっしゃい。久しぶりだね、お嬢ちゃん。大きくなったな」
『おじいさん。私のことよく覚えてたね』
「当たり前さ。5年間、待っていたぐらいだ。杏子ちゃん……いや、残酷神ネル・フィード」
『5年間? ふーん。あの時からもうおじいさんは残酷神の力を感じていたんだ?』
「残酷神の力は強大だからな。すぐに分かったよ。杏子ちゃんが契約したってな」
『ということは、おじいさんも腐神を宿してるってことね』
「ああ。もう何十年も前からな」
『そんな前から? ていうか、その腐神はおじいさんを乗っとらないわけ?』
(方舟水晶なしで腐神を飼うなんて、できっこないのに!)
「あはは。もう乗っとられとるよ。こうみえてな」
『そ、そんな、姿も人間のままだし、方舟水晶もなしで腐神をコントロールなんて……』
「方舟水晶? なるほどな。それで杏子ちゃんは残酷神を宿しても正気を保っておれたのか」
『偶然ね。本来なら大量殺人犯ぐらいにはなってたと思うよ』
「あはは。私はまさに、その大量殺人犯なんだ。この数十年で1000人以上は殺したな」
『マッ、マジでっ!?』
「殺す、犯す、好き放題やってきた。そもそも私は腐神など宿さなくても鬼畜な人間だった」
『人は見た目じゃ判断できないね。人の良さそうな顔してんのに』
「実はあの日、杏子ちゃんが腐神の本を手に取らなかったら、奥に連れこんで殺すつもりだった。私はそういう男だ」
『あっぶなっ!』
「あははっ。私の中にいる腐神はな、人の心を操る力がある。それ以外はからっきしでな。私とたまに入れかわりながら殺人を楽しんでいる」
『そうだったの』
「お互い快楽殺人者として、仲良くなってな。長年パートナーとしてつきあってきた」
『素敵な友情ね』
「だが、私ももう年だ。殺人にも飽きてきたところ。この腐神、杏子ちゃんにくれてやろうと思う」
『その腐神を?』
「そうだ。ニュース見たぞ。フロッグマン。腐神だな?」
『正解』
「杏子ちゃんが動きだしたとピンときた。となれば、私の腐神の存在にもいづれ気づき、ここに再び訪れるだろうと思ったわけだ」
『もし、私が残酷神に乗っとられて暴れて回ってたらどうしてたの?』
「それはもう……なるようにしかならんな。とはいえ5年もの間なにごとも起きんし、『私の例』があるからな。杏子ちゃんも残酷神と仲良くなったのかと思っていた」
『仲良しってわけでもないけどね』
「あのフロッグマンは? 手下か?」
『そうそう。私が仲介役になって2年前に仮契約させたんだ。あいつも水晶を持ってるから人間の時の記憶がちゃんとあるんだよ』
「そうか。杏子ちゃん、この世界……どうするんだ?」
『私の恋人の理想郷を作る!』
「あはははッ! やっぱり面白い子だ君は。初めて会った時からそう思ってはいたがな。だが……」
『分かってるよ。おじいさん。私が本気で動きだせば観測者アンキテラも動きだす!』
「ちゃんと本を読んだようだな。その通りだ。アンキテラが『力ある者』を送りこんでくる……」
『私は負けない。その為にゼロワールドという腐神の組織を作る!』
「ほお、腐神をたばねるのか?」
『今ね、腐神界には8体 腐神がいるんだよ。その全員を地上におろしたいんだけど、なかなか残酷神の力を持ってしてもコンタクトが難しくてね』
「あははは! それなら私の腐神が役にたちそうだな」
『どおゆうこと?』
「私の友、腐神『
『腐神、
「私が名づけたんだ。人間の心をうまいこと言って操るもんだからな。……おい、操ッ! どうだ? 腐神界の腐神たちとコンタクトをとれるか?」
笹山のおじいさんは体内の腐神に確認をとってくれた。
『どう? おじいさん』
「うん、大丈夫だそうだ。多少時間はかかるが、すべての腐神とコンタクトがとれると。そして、残酷神が協力してくれれば、尚のことうまくいくだろうと言っている」
『よかったー。これで計画も無事に進められそうだよ』
「杏子ちゃん、いや、残酷神様。操のこと、よろしくお願いします」
『ちょっと待ってよ、おじいさん! いっしょに戦おうよ! 方舟水晶のネックレス、なんとか用意するからさ』
「私はもう十分このけがれた世界を堪能した。93年の人生に悔いはない。この体を完全に操にくれてやるさ。残酷神である杏子ちゃんの手下として使ってやってくれ」
『おじいさん……』
「私のことは腐神『操』との契約者『
『おっけー! 分かったよ。助かる』
「じゃあな。残酷神……」
そう言って、おじいさんは目を閉じた。すると、みるみる肌の色が紫になっていく。爪がするどく伸びはじめ、口からは牙がのぞく。ひらいた目は、白目部分が黄色く、黒目は緑色に変化。頭には2本のツノが生えた。
『はああああ……っ!』
『あんたが興味を持った快楽殺人者『笹山喜八』……あんたにはそんな風に見えていたんだね。完全に鬼じゃん! ウケる!』
『ケケケッ! あの有名な残酷神ネル・フィード様とこうして直接会えるとは思いませんでしたよ』
『鎖鎖矢餽、これから我々のアジトに向かう。腐神とのコンタクト、力を貸してもらうよ』
『お安い御用です。なんなりとご命令下さい。腐神の組織をお作りになろうとは。さすが残酷神様です』
『フロッグマンと鎖鎖矢餽』
この2体の腐神を使い、ゼロワールドの骨格を作る。着々と私の計画は進行してゆく。誰にも私を止めることはできない。止めることは許さない。
そして、満開のSAKURAのライブが明日に迫った。……めんどくさ!
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