第89話 やっぱりね

 バチバチッ! バチッ!


 腐神、魔亞苦・痛のボディーの損傷は著しい。藤花は勝ちを確信していた。


『な、なんで、あいつが、サイクロンなんか……使え……』


 ビシュン!


 再び藤花は光速で魔亞苦・痛の前にやって来た。


「神にしてはなかなか無様なスタイルじゃない? 地面に這いつくばっちゃってさ。ガラクタっぽくていいと思う」


 ガシャンッ! バチバチッ!


 魔亞苦・痛が起き上がり、両手を広げたッ!


『ガガァァッ!!  マジでムカついたぜぇぇッ! 貴様ら全員死ねぇぇええっ!! 自爆スイッチ オォ───ンッッッ!!』



 グオングオングオングオンッ!!


 魔亞苦・痛のボディーから地鳴りのような不気味な音がし始めたっ!


「なっ!? なんじゃとぉ!!」


「自爆ぅ!? 勘弁してよぉ!」


「ヤバないっ!?」


「激しくどうにもならないやつぅ!」



 グオングオングオンッ!!



『ガガガァァッ!! 神をなめたのが運の尽きだッ! 吹っ飛べぇえ───っ!!』












 ガッ!  ブチッ!!


『へっ!?』


「多分この赤いコード。これを切断すれば自爆はできない。違う?」


 藤花は魔亞苦・痛の左胸あたりの数本のコードの中から赤の1本を引きちぎった。


『ガ……ガ……ガガガ……』


「正解みたいね。さすがガラクタ、大事なコードが丸出しだなんて」


 藤花の頭脳は現在『IQ300』に達する程に研ぎ澄まされていた。元々の天才が、美咲の命の炎の回復により脳細胞までが活性化。一瞬にして魔亞苦・痛の自爆の回路を見破った。



「ありゃあ、腐神のやつ完全に参っとるのう」


「と、藤花、すごいっ!」


「藤花っちが私みたいな馬鹿じゃなくてよかったわぁ」


「激しく自爆しようとしたという事は、あいつ、もう負けを認めてるようなもの。今の藤花さんにはもう、勝てないっ!」


 美咲の言う事は、ほぼ当たっていた。だが、腐神はまだ足掻あがくっ!



『ガガガァァッ!!』



 バシュ─────ッ!!!!



 足の裏からから火炎を放射して、その勢いで宙に舞い上がった。


『あ、あんなに優勢だったのが嘘みたいだっ! いつの間にか全員復活してやがるしっ! 訳が分からんっ!』





 その時だった。








 ギイィィィィ……









 永遠の方舟本部、正面玄関の扉が開いたっ!










 そこから出てきたのは1人の中年の女性だった。整った顔立ち、長い艶のある髪、そして誰かにどことなく似ている。








「あ、あれは! ひょっとして?」


「間違いないっ! クロちゃんのお母さんじゃっ!」


「藤花さんの?」


「綺麗なお母さんねぇ」










「藤花っ!!」









(お、お母様っ!?)



 あの日、永遠の方舟の神棚を破壊した自分を突き飛ばし、追い出した母。杏子の死すら気にも留めなかった母。

 

 数日ぶりの再会だったが、もっと会っていないような錯覚に陥る。


 実の母親。毎日顔を合わし、食事をし、会話をし、笑った。そんな日々をあの一瞬で失った。藤花はなんて声をかけたらよいのか分からなかった。



「藤花!! 藤花よね!? は、早くこっちにいらっしゃいっ!! シェルターにっ!!」




 意外だった。




 髪の色も変わり、眼鏡もしていない。服だって知らない人が見たらただのコスプレのブラック・スーツ。


 そんな自分を一目で我が子と気づき、安全なシェルターに迎え入れようとしてくれている。あの、自分や自分の友人の死よりも、信仰心に取り憑かれた鬼の形相の母は、そこにはいないように感じた。



「ごめんねっ! お母さんバカだったっ! なんであの時、あんな事をっ! 私はあなたがっ、藤花が1番大事よっ!! だから早くっ! こっちにいらっしゃいっ!!」



「お、お母様……わ、私……」














 ビィィィィ───────ッ!!














 ズッブシャアアァッ!!












「私……の方……こそ……」

















「な、なんということをっ!」


「うわっあ!」


「うわわわっ! 藤花っち」


「んっ……」


 藤花以外の4人は、目を伏せ、俯いた。





 バタッ……











 藤花の目の前で、魔亞苦・痛のレーザーに頭を撃ち抜かれて母は死んだ。あたりには母の血が飛び散り、見るも無残な頭部が吹っ飛んだ母の死体が転がっていた。










『ガガガァァッ!! 邪魔邪魔あっ! これから良いところなんだからよぉ! クソババアが出てくるんじゃあねえぜっ!!』













「やっぱりね……」



 藤花は母の死体を見ながら言った。









『ガガガ? 何がダァ!?』





「あんたが今 殺したのはさ、永遠の方舟の信者よ。ゼロワールドは永遠の方舟の信者は殺さないはず。でも違った。あんた達は永遠の方舟信者も殺せる。牙皇子の命令で殺さないだけ。そうでしょ?」


『ガガガァァッ! 貴様には関係ないっ!!』


「やっぱりね。おかしいと思ってたんだ。杏子あんこちゃんなんてあっさり殺されてるし。ねぇ、一体なにがしたいの? 牙皇子狂魔はっ!」






 ガシャン! 


 魔亞苦・痛が着地した。


『ガガガッ! し、知りたいか?』


「なに? 教えてくれるわけ?」


『牙皇子は俺に真の理由なんて教えてはくれなかった。知っているのはフロッグマンと鎖鎖矢餽ささやきっていうジジイだけだ』


「カエル野郎とささやき?」


『ああ……』

(よーし! 完全に油断してやがる。ここらで硫酸噴射といきますかっ!)










 その時ッ!










『おしゃべりが過ぎるよ、魔亞苦・痛。しかも、永遠の方舟の信者を殺すだなんて。君には当然、死んでもらう』



『ガッ!? 斬咲きりさきっ!!』



 魔亞苦・痛の背後に音もなく影の様に現れた長刀を携えた女の腐神、その名は斬咲。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る