第90話 藤花vs斬咲

 斬咲は素早く刀を抜くと、躊躇なく魔亞苦・痛に斬りかかった。


影牙響刃えいがきょうしんッ!!』



 







 シュパッ








 静かな斬音と共に、魔亞苦・痛の頭部が宙を舞った。



 シャ─────── カチンッ!



 斬咲が『血吸い刀・天滅丸てんめつまる』を鞘に納めるのと同時に



 ガシャンッ!



 魔亞苦・痛の頭部がアスファルトに無惨に転がった。それを見ていた藤花は、苛立ちを抑えながら話し出した。


「あなたが噂の監視役の斬咲さん? 思っていたよりかわいいんだね」


『えーっ! 嬉しい。ありがとうごさいますっ♡』


「私、今すごく胸糞悪いんだ。お母様を目の前で殺されてさ。だから、ガラクタちゃんにこのストレスをぶつけようと思っていたの」


『えーっ? そうだったんですか?』


『そしたら、あなたが先に殺しちゃうから、困っちゃって。あなたが責任、取ってくれるのかな?」


『責任? ですかーっ?』


 藤花は限界だった。















「そうだあ! お前がガラクタの代わりに私にぶっ殺されろって言ってんだよ────ッ!!」


 ブオオアァァンッ!!


 ボボォンッッッ!!!


 ボォオォオオンッッッ!!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!


 藤花の命の炎には、これまでにない怒気が混じっているッ!


「ク、クロちゃんっ! 我を失っておるわぁぁあっ!!」


「うわあっああっ! 藤花あっ!」


「無理もないわよぉ! お母さんがあんなの! ひどいわよっ!」


「は、激し……くぅっ!」




『ふーん。ぶっ殺されろ、ねー』


「そうだッ! ゼロワールドは許さないッ!!」


 ビッシュンッ!!


 ガシッ!!


『!?』


「さっさと死ねッ!!」


 グアッ!!


 ドゴォオォオオンッッッ!!



 藤花は光速移動して斬咲の顔面を鷲掴みにし、そのまま後頭部を地面に叩きつけたッ!!


 さらに、地面にめり込む斬咲の顔面を、馬乗りになって連打で殴りつけるっ!


「うあああああ────っ!!」


  ドガドガドガドガドガドガッ!!


 ガシッ!  


  ガシッ!!


『捕まえたあっ♡』


「ぐっ!! このぉ……!」


  ググググゥッ……!


 斬咲が藤花の両拳を掴み、そのまま起き上がった。



 バッ!


    スタッ!


 そして、後方にジャンプして藤花と5メートルの距離を取る。


『もの凄い猛攻♡ 口の中が少し切れちゃったー! いったぁい!』


「余裕だね。アスファルトに頭ぶち込んでやったのにさっ!」


 斬咲が深々と丁寧に頭を下げた。


『この度はうちの魔亞苦・痛がゼロワールドのルールである『永遠の方舟信者は殺さない』を破ってしまい大変申し訳ありませんでした。しかも、それがあなたのお母様だったということで。ご冥福をお祈りします』


「は? ふざけないで」


『ふざけてなんていませんよ。心からお悔やみ申し上げますーっ!』


「それがふざけてるって言うんだよお──っ!!!!」


 ズアッボンッ!!! 


 ギュアアアアアアッ!!


 シュゴオオオオッ!!


 怒りの藤花は暴れまくる紫炎の炎を心のままに武器化する!


「狂剣……凶獄夜叉きょうごくやしゃッ!!」


 ボボォンッ!!


 ギュアアッッ!!


『わおっ! かっこいいですー♡』


「お前にその刀は抜かせないッ! その前にぶった斬るッ!」


『大丈夫ですよー。命令以外のことはできませんので。攻撃はしません。まだね……♡』


「ならっ、大人しく殺されろぉぉぉおっ──────!!!!」


 ズバッ!  ブゥンッッ! 


 ボォウッ!  ズバッッ!!


 シュンッ!   シュンッ!


 藤花の凶剣による攻撃を斬咲はひらりひらりと舞い散る花弁の如く、紙一重でかわす。


「だああっ! 夜叉葬送刃やしゃそうそうじんッ!」


 ゴオウッ! ズバシュンッ!!


 ヒラリッ!!


 藤花渾身の一撃も、斬咲はあっさりとかわしてしまった!


「はあっ! はあっ! くっそぉ!」


『その太刀筋では、私を殺すのは一生無理ですね♡』


「腕が、腕が重いっ! 動きにくいっ! なんでよっ!? んもうっ!」




 『腕が重い』




 この藤花の声を聞いて、陣平はすっかり忘れていたことを思い出した。


「西岡さんや、テレパシー状態を作ってくれるか?」


「分かったわ」


 ピッ


『クロちゃん、聞こえるか! ワシじゃ!』


「じ、陣平さん?」


『そうじゃ。テレパシーで話しとる。よーく聞け。紫の命の炎、『全力で使うな』と言ったのを忘れたかっ!! バカものっ!!』




 藤花が栄路寺で陣平と初めて会って命の炎を全解放し、特性を探っていたあの時、藤花は自分で言っていた。




『腕がどんどん重たくなっていく。あの感じ、怖かった』




 そして、陣平は藤花に言ったのだ。




『クロちゃんよぉ、その紫の命の炎は全開で使っちゃいかん。7、8割の力で戦え。ええな?』









「そ、そういえば……」


『思い出したか。我を失い感情を爆発させ全解放しおって。母を殺され逆上する気持ちは分かる。だが、今一度落ち着くのじゃ!』


「はぁっ、はぁ、はいっ!」


 藤花は『気持ち』と『命の炎』をコントロール。すると腕の重さは自然と消えた。


「はあっ、はあ……」


『赤髪さん、落ち着きました? 剣山のような殺気が消えて、波紋ひとつない湖面のように静かでエネルギーに満ちた『理想的な状態』になってる。しかもほんの数秒で。見事なアンガーマネジメントです♡』


 斬咲は笑顔で拍手した。


「ひき続き、あんたを始末する作業に取り掛からせてもらう」


 シュボォォウッ!!


 藤花は命の炎を身に纏った。すると、斬咲は後ろを向いてしまった。









『私、もう帰りまーすっ!』


「か、帰るっ!?」


『明日、私はあなた方と戦うことになるんです。もうひとりの最強の腐神と一緒にです』


「もうひとり……最強?」


『それまでゆっくり体を休めて下さいね♡ 今の理想的な状態の赤髪さんとなら、いい勝負ができそうだから楽しみでーす。キリリリリっ!』


「なにを『遠足前日の子供』みたいにはしゃいでるの? いい勝負? 違う。ただの殺し合いだから」


『そっかー。では明日、あなた方をこの刀でメッタ斬りにしちゃいまーす。『勝負』なんかではない、ただの『殺し合い』の末に♡』


 

 藤花は髪をかき上げて言った。



「ゼロワールドは絶対に潰すッ!」


『分かりました。そう牙皇子様にお伝えしておきます。ではッ!!』



 ギュンッ!


 斬咲はルンルン気分で飛び去った。

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