第88話 サイクロン

『ブー! ブー! 警戒セヨ! 警戒セヨ!』


『んっ!? なんだ!?』


 真珠を踏みつける魔亞苦・痛の脳内に、警戒を知らせるブザーが鳴った。センサーが藤花の尋常ではない殺気に反応したのだ。


 腐神が振り返ると、そこには紫の炎を全身から噴き出し、赤い髪を天に舞い上がるが如く靡かせる黒宮藤花がいた。


 美咲のお陰で、睡眠だけでは取りきれなかった昨日のダメージもすべてなくなった。


 仲間を傷つけられた怒りと相手の実力を見極める冷静さ。その両方が今の藤花にはある。腐神の警戒ブザーは鳴り止まない。


『えーいっ! やかましいわっ!』


 ビッ!


 魔亞苦・痛は警戒音を止め、藤花にスコープアイを向ける。


 ウィ、ウイィィーーン……


 ピピピピピピピピ……!


『体温上昇、心拍数上昇、アドレナリン分泌量上昇。先程までとは打って変わって『快楽殺人犯』並みの数値じゃないか。そうこなくては面白くない。かかって来いよ。生きたまま性器を切り取ってやる。ガガガ!』


「ふーん、私もそう思ってた。ガラクタにもちんこついてんの?」


『神相手に破廉恥な女だ。下品な女は好みじゃねぇ。ガガガ!』


「だから、あんたは神ではないって言ってるのよ。ガラクタ粗大ゴミさん」


『ガーガガガッ! 喰らえぁぁあ!』


 ビィィ───────ッ!!


「でやぁぁあああっ!!!!」


 バチィンッ!! ドオオォオン!!


『なんだとぉっ!?』


 藤花は魔亞苦・痛のレーザーを片手で弾き飛ばしたっ!


「光速移動……!」


 ビシュウンッ!!!!


『ガッ!?』


 藤花は魔亞苦・痛の正面に一瞬で現れた。


「陣平流、白虎烈撃びゃっこれつげき……!」


 ブォンッ!!


 ガッシャンッ!!


『ガガッ!?』


 藤花は魔亞苦・痛の飛び出たスコープを冷酷に破壊した。


 キュイ──────ンッ!!!


 慌てて高速で後方へ滑るように距離を取る腐神。


『なにが起きたっ!? くそっ! 大事なスコープを破壊しやがって!!』





 ブアオオオオッ!!


「助かったよ! 美咲!」


 ぴょん、ぴょん、スタッ!


 その間にイバラ復活。


『あの氷女、動けなくしたはずなのにぃっ!? どうなってんだ!?』


 ズガッ!!


 藤花は攻撃の手を緩めない。混乱する魔亞苦・痛に両手の平を向けた。


「サイクロン……ッ!!」


『サイクロンだと!? ライノマンの技を使えるわけないだろ!? 完全に頭が狂ったなぁ!!』


「きたあっ!!」


 シュゴゴゴゴォォォオッ!!


『へっ!?』


 藤花は髪色の能力『天才』で、ライノマンが使った腐神技サイクロンを手に入れることに成功していた!


「だああ─────ッ!!」


 ズッドォオオオンッッッ!!


『ふ、ふざけっ……ぐ、ぐわあああっっ!!』


 ブアオオオオオンッ!!


 藤花のサイクロンが腐神を上空へ舞い上げるッ!


 ギュルギュルギュルルルルッ!!


『ガガ、ガ、ガ、ガガーッ!』


「それぇぇええっー!!」


 グインッ! ブオンッ!!


 藤花はサイクロンを巧みにコントロール。腐神を地面に叩きつける!


『やめろお───ッ!!』


 ブオオオオオォォオンッ!!


 ドォ─────ンッ!!


 ガシャンッ!!


 バチバチィッ!


『グガッ!! ガガガ……ッ!』


 シュウウウウウウウッ!


 魔亞苦・痛の歪んだボディーから、火花と真っ黒な煙があがる。



 バオオウッ!!


「サンキュー♡ 美咲っち!」


 美咲の命の炎で真珠も復活。


 そして、続けて陣平も。


「すまんのぉ、すごいじゃないか。これが美咲の命の炎の特性じゃったのか。ワシたちがこの炎に頼って気が抜けたり、無茶したりするのが怖かったんじゃな?」


「う、うん。激しく……」


「いい子じゃ」


 陣平は美咲の頭を優しく撫でた。そして、力強く立つ藤花を見た。


「クロちゃん、凄まじい気迫じゃ。だが、奴はまだなにかを狙ってるぞ。気をつけろ!」


『グガッ……ガガガ……!』

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