第485話 狂想のアフロディーテ

 深淵しんえんの闇をまといし狂想きょうそうのアフロディーテ。本日2度目のミロッカの登場に、エルフリーナは涙を拭いて懇願した。


『ミロッカ様! お姉たまの石化、なんとかならないですか!?』


『なに? 石化?』


『これなんですけど……』


 エルフリーナは横たわるアイリッサの冷たく固まった右腕を優しく持ち上げた。


『あらら、ぷひーの手、石になってんじゃん。ウケんだけど!』


『どんどん石化が広がっているんです。このままだと心臓まで石になっちゃう……死んじゃいます!』


『ほほう』


 ミロッカは普段、愛するマギラバの意識の中で心地よく眠っている。ただし、マギラバの身体的、精神的異常を感じるとバッチリ覚醒する。前回はエミリーに凍結され、彼が死に直面した場面で彼女は目を覚ました。


 今回もそれに匹敵する事態を感じ取ったミロッカは、状況を把握する為にひとまずネル・フィードの意識を断ち、外界へ舞い降りたのだった。


『ゼロさんも倒れちゃうし、私どうすればいいのか……!』


「なるほどねぇ……」

(マギラバ……こんなぷひーのどこがいいの? しょうのない男だ♡)


 意中のマギラバを自分にガチ恋させたい彼女は、バイブス最高潮での再会を果たしたい。それには彼がほぼ詰んでいる状態で、プリキュアばりのヒロイン感満載で登場することが必須。


 とはいえ、今回もその場面にはほど遠い。ミロッカは新たなフェーズに突入するか否かを考え始めていた。


『お願いです、ミロッカ様! どうかお姉たまをお助け下さい!』


 ミロッカの存在はもはや神。エルフリーナは額を地面につけ、彼女の圧倒的スケールにすがるしかなかった。


『私、めっちゃあがめられてない? バリ気持ちええやん!』


 ミロッカは今までに感じたことのない高揚感に包まれ心が弾む。エルフリーナはゆっくりと顔をあげ、改めて確認する。


『どうなんですか? 本当にお姉たまの石化を止められるのですか?』


『崇拝されるって悪くないね〜』


 この深刻な事態にもかかわらず、へらへらとよく分からない反応ばかりのミロッカに、エルフリーナは徐々に疑念を抱き始めた。


 この人は確かに強い。だからと言って万能とは限らない。性格に少し問題があるのも知っている。


『知らんし』


 とか言って、消えてしまう光景が目に浮かばなくもない。愛するお姉たまの為に土下座はしたものの、エルフリーナは我に返り落胆した。


『さすがに無理でしたよね……』 


 そんな彼女を見て、女神モード突入中のミロッカは不快感を露わにした。


『いいか、よく聞け。この私に不可能はない。石化を解くなんて、童貞くんをパンツ履かせたままでイカせるよりも簡単なことだ』


『そ、そんな簡単に?』


『でも……ただで石化を解くつもりはない。条件がある』


 ミロッカの瞳がブラックダイヤモンドばりに美しくも、怪しく光る。


『それは、な、なんですか?』


『質問をするな。そして、返答は『はい』だけだ。お前に拒否権はない!』


『は、はいぃっ!』

(一体なに企んでんの? この人、怖すぎるんですけどお!)


 じわっ


 エルフリーナは少しチビった。

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